八章

8...

「心配しないで。すぐそこだから。」
廃れたアーケードの奥。
黒猫についてきた先で、危ないところを見知らぬ人物に助けられたミミドリは、その人について、薄暗いアーケードを進む。

「こんなところに一人で来たの?」
「…そうです…。」
腐った楽園に見合わぬ彼女の姿を見て、彼…あるいは彼女だろうか…はどこか違和感を覚えたようである。
「…あんたさ、ずいぶんと見ない顔よね。」
「……。」
「あぁ、別に、怖がらせる意図で聞いたんじゃないよ。」
シャッターとシャッターの間にある道…更に薄暗さの増すその先は、少し下る階段になっている。
答えに迷う彼女に、「…はい、着いたよ。」と言って、その人物は、階段の先にある扉の前に立った。
扉の上には、電気の通った看板がついており、そのふんわりとした光が薄暗い中に暖かさを置く。

開けられた扉の中の景色は、結蓮たちのバーに似ている。違うところは、青系統の光に包まれていること…。
彼女はその景色に、似た景色を思い出し安堵する気持ちと、落ち着いている見知らぬ景色に緊張する気持ち、その両方を抱いた。
「…お?お帰り…。」
カウンターに立っている、別な背の高い男が、二人を見るや否や、彼女を見て少し驚いた様子で、声をかけた。
彼女を連れてきた人物は、「テンちゃん、あったかいもの飲ませてあげて。」と言って、彼女をカウンターに座らせ、「ちょっと待ってて。」と笑って見せる。

…この雰囲気からすると、心配はいらなそうだが…。周囲には、男の人ばかりだ。ここはもしかして…?
そんなことを考えつつ、数分が経ったところで、
「お野菜は大丈夫?」
「…あ、大丈夫です!」
すぐに意味を察して返事を返すのだが、そんなにしてもらっていいのだろうかと、まだ遠慮がちになってしまう気持ちもあった。
「はい。これ飲んでね。」
そんな中、目の前には温かい野菜スープが出された…。


一方。彼女の部屋では…。


「…また攫われたんじゃねぇの…。」
「さすがにそれはないって。まだ出て行ってそんなに経ってないから。大丈夫よ。」
猫の面倒を見に行ったミミドリが帰ってこないと心配する双子兄妹。
…口ではいくら大丈夫とは言えても、必ずしもそうはいかないのが、この楽園の険しいところである。
「もうこの際さ、帰ってきたら軟禁しようぜ、軟禁。」
「なんでそうなるのよ?」
「だって…。」
…初めて妹ができたのに…。そう言い出そうとしてやめた結蘭だが…。
「…かわいいのはわかるけど、閉じ込めたらアンタのことも嫌いになっちゃうよ?」
「なんでよ!」
それは自分の思考を読まれたことに対する叫びなのか。それとも彼女に嫌われると言われたことへの叫びなのか。
「それに、一番閉じ込めたい気持ちがあるのは、きっとあんたじゃないわよ…。」

そんな会話を兄妹でしつつも、やはり彼女が帰ってこないことに対する不安を募らせていると。
「……あら、電話だわ。」
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