七章
ちょっと出歩くだけなら…と、外階段を降りてみた。すると、あの黒猫が走ってくる。
…にゃ~ぁ~ん。
走りながらなんという長鳴きを…。
一瞬かわいいなと思った彼女の思考は、その黒猫の顔がどこか必死だったのを見て、すぐに違和感への疑問へと切り替わる。
「何?お腹すいた?じゃあ今持ってくるよ?」
…そう言って中に入り、結蓮からペーストの袋を一本もらって…そうしている間にも、外からは、にゃー、にゃー、と、何かを催促しているような声が聞こえていた。
そんなにお腹が空いているのか、と思ったのだが…。
「…なんだ、違うのかい?」
袋を開けて、中身を出してやってみても、匂いを嗅いで少し舐めただけで満足したのか、すぐにそっぽを向いてしまう。
口元に持っていってやるのだが、やはり少し食べただけで、そっぽを向いた。
「お腹空いてるんじゃないの?」
袋は建物の中に片付け…。また階段を降りて戻ってくると。
…にゃ~ん!
今度は、いつも例の"集会所"に行くときの方向、少し離れた位置から、一層大きな声で、こちらを呼んだ。
…そっちへついて来い、ということか…。しかし…。
「う~ん…。」
返事をしながら考える。
あれほど怖いことがあったのに、また遠くへ行くなんてことはできない。クールにも言われたはずだ。
…にゃ~~ん!
それでも、猫が。大きな声で。もはや必死すぎて少しかわいそうなくらいの顔をして。こちらを呼んでいるのだ…。
……仕方ない。
「…ちょっとだけだよ。」
必死な顔と声に負けて。
彼女はその黒猫に少しついていくことにした…。
黒猫は、彼女が歩いて近付くと、先を行くように歩き出す。ある程度の距離を保ちながら、彼女は黒猫についていった。
…あまり遠くへは行ってはいけないと、再三、心の中で繰り返しながら…。
路地を、集会所とは違う方の道へと曲がり、建物からはみ出ているトタン屋根の端と端で覆われた、狭くて少し薄暗い路地、まだ知らない景色が、彼女の目に映る。まずいと思いつつ立ち止まると、距離の空いたあたりで振り返った黒猫が、とん、と座って、こちらを待っているので、なかなか引き返せない。
「…にゃん…そっちに行くの?」
話しかけても、ただ静かに自分を待って、地面を尻尾で、トン、トン、と打って見せるだけだった。
