五章
「…最初は一人じゃなかった。」
「誰といた?」
「……友達。」
「友達?あのゲーセンの?」
「うん…。」
そもそもあの時に一人で帰る選択肢を取らなければ良かったのだろうと思う彼女は、なかなかうまく言うことができず、言葉を詰まらせる。
「…行かない?って誘われたから…。でもその時じゃなくて、帰り…。」
「…それで帰り一人だったのか。」
「…うん。」
彼はいつもながら、別段、感情的になるわけでもなく、だが、どこか呆れたようにそこまで聞き終えて、大きなため息をついた。
しかし、しばし考えた後、まぁいいか、と言うので、もう少し咎められるものだと思っていた彼女は少し驚く…。
その夜。布団に入ったとき、
「…その誘ってきた奴は誰?」
思い出したように彼が聞く。
「…来てほしいって言った人?」
「そう。」
「…あの、前髪長い…眼鏡の…。」
「あぁ…あいつね。」
ため息交じりで、わかった、と言う彼が一体何を考えているのか、よくわからなかった彼女だが、
「…ヤキモチ?」
と、少しの勇気を振り絞って冗談半分で聞くと、彼は少し吹き出して笑ったあとで、
「違うよ、そういうことじゃねぇよ。」
…と言った。
「…何?」
「…どうしても聞きたい?」
静かにそう言った彼の頭に何か悪いことの察しがついているんだろうと、彼女はただ思ったが、それでも気になって、聞くのをやめることができない。
「……たぶん、あいつと攫おうとした奴はグルだ。」
「……!」
「そういう計画だったんだよ。お前を呼び出して、帰るときに連れてけるようにしたってこと。」
「…え、でも…」
あの人はいい人だと言おうとして、彼女はとても言い出せなかった。この街ではそれは通用しないということを、なんとなく悟っていたからだ。
「…もしかしたら、一緒に帰ってたらそのままどっかに連れてかれてたかもな。」
穏やかに聞いていたのに、また一気に怖くなって、ゾッとした。
「まぁ、帰りそいつと一緒じゃなくて良かったよ…。自分で選んだんだろ?」
「…そう。」
「ん、偉い。」
急に頭を撫でられて少し困惑しているが、
「…でも、なんで?」
「…グルってわかったの、なんでって?」
「…うん…その人、なんかあるのかなって…。」
…なぜその人を疑うのか。聞いておきたかったのだ。
すると彼は、説明に困ったようで、しばし唸ってから、
「…そうだな…たぶん、知らない方がいい。とりあえず、ヤバい奴だってことは覚えときな。」
ただ、こう言った…。
裏社会のことをよく知らないで聞いた手前、彼女は何も言うことができず、腕にくるまれたまま目を閉じる。
「…もう一人で外歩くなよ。」
「…うん。」
「確証ない奴とは歩くな…。俺じゃなくても、せめてあの二人のどっちかと一緒に行けるときにしろ…。」
彼は最後にこう言って、彼女の背中を撫でた。
