四章

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抱き上げられて顔を埋めたままのミミドリの耳に入ってくる、道の音…その殆どは、大声で笑ったり駄弁ったりしている人の声。どうか自分たちには見向きもしないでいてくれと、そう思うばかりである。
だが今は、こうやって連れて歩いてくれているクールがいるので、少し安心して顔を埋めていた。

やがて明かりが徐々に離れ、ラクガキのされたシャッターだらけの景色へと移り変わる。
「…降ろすぞ。」
彼は立ち止まってゆっくり降ろすと、また手を握って歩き出した。重たい扉の前に来ると、漏れている音で彼女も気づいた様子。
その扉を押し開け、暗い室内の景色を見た彼女の顔が少し変わったのを見て、安堵する。

その先は、ゲーセンだ。
扉を抜けると、薄暗い建物の中にいくつもの光る画面が見える。左奥の壁にはずらりと並ぶアップライト筐体があり、目の前、少し入ったところに対戦系列やその他のアクションやパズル系列のエリアができていた。
彼女がゲーム好きなのを知っていた彼は、数日前にここを見て、連れてこようと考えたのだ。

だが、その景色がおそらく彼女の馴染んでいるものとは少し違うものであることは、彼もなんとなく知っている。
「…。」
「さすがにアンタがいたところはこんなじゃなかったか。」
「…うん。」
当然ながら対戦系列のエリアでは、大声が飛び交っていたので、それを彼女が歩きながら眺めていると、周りが少し二人に気づく。

二人が向かったのは、有名会社のアクション系列のエリア。
筐体の前に行くと、それだけで、気づいていた集団がひそひそし始めた…。
一度隣の彼女が始めると、それまで対戦系列に興じていた者まで、後ろから見ていた。
「…あれ…見たことある?」
「いや。」
このエデンでこの場所とは無縁なはずの存在がなぜそこまでゲームを遊んでいるのか…。
周囲はそれが疑問だったのだろう。そのギャラリーの圧は相当なもので、それまで話し声で溢れていたゲーセンは、彼女が始めてしばらくすると、その周辺一帯は落ち着いていた…。

初めて連れてきたとはいえ、まさかこんなことになるとは思わなかった彼は、彼女があまりにも知られすぎることへの不安がまた少しよぎる。そんなことをこれまでに考えたことがあっただろうか…。
だが彼はまだ、その感覚を認めきっていない。
きっと数日前を思い出して、巻き込まないか不安になっているだけだと思っていた。

緊張が効いて良い結果になったゲームが終わると、画面反射で見えるギャラリーから見られていると気づいており、振り返るのに躊躇する彼女。

…そんな中、少し離れたところ、入り口のトビラ付近にある階段から、とある男が、騒ぎの様子を見ていた…。
二人が去るときになって、ゆっくりと彼女を見ていた集団へと近づいていく男。
眼鏡をかけており、向かって右斜めで分かれた前髪…左側は長く伸ばしてあり、少し固めてある様子。おそらく3、40代くらいという見た目の彼は、二人とすれ違う。

すれ違いざまに一瞬、クールが気づいた。こちらを見るような感じに、ただすれ違うだけではないことを悟る。
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