三章
「…まさか…そんな相手に俺たちで勝てるわけないっすよ…。」
「バカ、見張りに行くのはアンタ一人じゃないよ。みんなって言ってるじゃん…。多少闘えるメンツもいるって。」
「…いや、そうは言ったって…。」
その先の言葉を言えずに黙る浪人をしばし見つめるスーツの男。
「…約束は守ってもらうよ?そういう決まりで受け入れたんだから…。さっきも言ったの、忘れた?」
「……。」
「敵さんはまたどうせ、近いうちにここへ来るだろうから。それを待って、うまく足止めできればいいんだよね…。」
ふう、と一息ついてから、スーツの男はまた背を向けて歩き出し、
「僕らは僕らで、別の方法を探すよ…。このままほっといちゃ、まずいからねぇ。」
おそらくは廊下に繋がっているのであろう、スライド式のドアの前まで来て、もう一度振り返った。
「…あ、話は終わり…。」
座ったまま少し下を向いて…何かを考え込んでいるような浪人に向け、相変わらず企みのあるような雰囲気を崩さず、こう言葉をかける。
「君らは奴が来たら足止めに回ってくれ…。なんでもいいから。」
――――― 半日後。
レンガの街の、見たこともないくらいの長い長い階段の上から飛び降りて、フワフワとした感覚で宙を舞っている…。
そんなよくわからない光景を見ているはずの頭が、"ぼんやり"から"はっきり"の領域へ、だんだんと引き戻されていく感覚。
『~~!~~!!』
…音?声?…何か変な音が聞こえる。うるさい…。
『~~~!バカヤロー!』
耳を澄ますと、はっきりしない音が徐々にはっきりしてきて、その単語が鮮明に聞き取れた。
…ばかやろう?
「……?」
目覚ましは、どこかから聞こえる、怒鳴り声だった。
目を覚ましたミミドリはすぐに時計を確認する。今は14時半。本当の目覚まし…携帯のアラームまではあと30分ほどあったが、起きてしまったものは仕方がない。たかが30分、二度寝をするような時間でもなかった。
少しもったいないような気持ちと、またしても響いている怒鳴り声へのわずかな恐怖に、心を占領されそうになりながらも、今日のこれからのことを考えて、なんとか気分を元に戻そうとする。
"彼"に会うまで、あと2時間半だ。ぼーっとしている時間はあまりない。
『~~!!』
ちょうどそのとき耳に届いた、何を言っているのか聞き取れないようなこの怒鳴り声の、タイミングが良かったので、今度はなんだかエイエイオーのように聞こえて、吹き出しそうになった。
「今日からはまた一緒に寝られるね。」
彼女が用意をしていると、結蓮がそう声をかける。
「…うん…。」
「ちょっと緊張してる?」
大人しく返事をするミミドリに、そう言って笑う結蓮。
