三章


どうして自分自身がこの道を選んだのか、それも本当のところはわからぬままだった。ただでさえ自分は何もすることがないのに…。
ただただ、ゆっくりと、漏れる明かりに照らされるコンクリートを歩いていくと、その道は両脇共にいつしか眩しい明かりを灯す建物が減り、景色が次第にシャッター街へと移り変わり始める。
もうきっとこの先には何もない…。そう思って、どうしようかと立ち止まったとき。
ふと澄まされた彼の耳が、まだどこかから小さく響いているくぐもった音を、拾った。いろいろな音が混ざり合ったような…。人間のものではないが、ガヤガヤとした音。
そして、それが何であるのか、次第にうっすらとわかってくるような気がした。このシャッター街のどこかに、その音の発生源がありそうだ。
すぐさま辺りを確認し、右側の建物に沿って耳を澄ませて歩いていくと、やはり歩くにつれ、その音が徐々に徐々に近づいていく。

…辿り着いたのは、シャッターの降りる建物と一緒に並んでいた、比較的頑丈そうな壁、これまた少し横に長い建物の、重圧感のある厚い扉。音がその建物から漏れていることがわかる。
彼はだいたいの確信を持って、その重たい扉を押し開けた。


数日後の夕方。彼女に再会するや否や、彼は声を弾ませていた。
面白そうな場所があった、と。


――――― その日、未明


どこの建物、どこの部屋だろうか、古びた白い壁の薄暗い会議室のような場所に、スーツの男と、黒いシャツを着た…いかにも浪人といったような、はっきりとしない目の男が、座っている。
「…あの失敗作か…。」
その言葉とともに放たれるため息は、浪人が伝えた事案へのものだった。
「とっくに死んでるかと思ってたよ…誰が拾ったんだか…。ホントにこの写真に似てた?」
「…本当に…緑の肌をしたのが歩いてて…。」

スーツの男が指差す、壁の写真には、緑色の肌をした…小学生くらいの大きさだろうか、人間の男の子のようなものが写っている。そしてその写真の背景は、どこかの施設らしき場所だった…。

「…まぁいいや。こいつはあとで考えとく。」
写真から目をそらして、男は立ち上がった。
「話、って…。」
座ったままのもう一人が、その背中に言葉をかける。
「…見張りの強化。仕事だよ。」
「…!」

緊張した面持ちだった浪人は、背を向けた男の言葉を聞いて更に深刻な表情を浮かべ、スーツの男は浪人の方へゆっくり振り返った。

「住まわせてやってるんだから、これが条件。それは前に言ったよね…?だから、みんなにも伝えといてよ。」
男は何か企みを持ったような雰囲気で、浪人をしっかりと見下ろしながら確認を取る男に、物言いたげな浪人は、おそるおそる、口を開く。
「…その…今回は何が…?」
「そう、その話なんだけど…。今回は、ちょっと一大事かもしれない…。」
何を言い出すのかと恐れているのを隠しきれていない様子の浪人…。
「手ごわい奴に目をつけられちまった…。この街を飛び回ってると噂の…天使様に。」
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