魔の記念日、唯一の幸せ

P.M.21


言われた通りあいつの部屋に行くと。大きめのキャンディ袋を膝に乗せて、ベッドに座ってるのが、すぐ目の前に見えた。

「…よ。」
袋に目を落としてから俺に目を移す姿がぎこちない。
「…なんか、いろいろ考えたんだけど…。よくわかんなかった…。」

…誕生日の話でもあり、日付的な話でもあることは、なんとなくわかった。横に座った俺の膝にその袋を渡して、言葉に詰まってる顔だから、つい笑いが出てくる。

「……一日早いけど……誕生日おめでとう。」
「おぉ…。」
頭に手を置いたらなんとも恥ずかしそうに笑った。

そんな誕生日如きで緊張なんて…と思いつつ、それで露骨に緊張顔をするのがやっぱり面白くて、それまで何を考えてたか忘れる。
「でも、ホントのプレゼントはこっち。」
「…!」
目の前の幸せを抱きしめる俺には、さっきまでの塞ぐ気持ちはもうない。

「……なんにもないよ?」
抱きしめられて戸惑ってるのか、それとも本当に何もないと思ってるのか。こいつのことだし両方だろうけど。

「いつも通り一緒に居ればいいんだよ。」
こいつが迷ってたのも、俺が物欲ないからだろうけど。そうじゃなくて。
「いつどっちが先にいなくなるかもわかんない…。」

…ようやく少し何かを察したような雰囲気だった。

「今も一緒にいるってことは、それがプレゼント。」
「…来年は?」
「来年まで一緒にいるのがプレゼントだよ。」
こういうとき決まっていつも固まりっぱなし…だと思ってたら、今日は、かたまってしばらくして自分から抱き返してくる。これをあの結蓮が見たらなんて言うのか。

…それはいいとして…。言わなきゃならないことがあったんだよな。
「明日は危ねぇから、俺が来るまでは籠ってろよ。」
こう言うのも、明日が特別〝その日〟だからなのは当然だが、それだけじゃない。

明日俺は、こいつに付きまとってる奴を、叩きに行く。
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