五章


しばらくして、震えながら弱々しい腕が彼を抱き返すと、彼もまた、突き放したのは間違いだったと実感する。
「…無事でよかった。」
クールはそう言うと、すぐに彼女を抱き上げた。

その後ろからは、軍の一部に銃口を向けられてもお構いなしに、灰児も歩み寄っている。
今はとにかくこの二人を、なんとか外へ出さなければと思っていた。

倒れているカルロスに手錠をはめた、ハリー・ネスの目には、これまでずっと課題だったカルロスの確保ができたことへの安堵があった。
そしてその安堵は、"あの二人"が無事であったことにも…。

ミミドリを抱き上げているクールと、周囲の軍隊へと銃口を向けている灰児は、お互いに無言のまま顔を見合わせた。
壁の右側と左側のエレベーターの間、中央にある階段を、灰児が顎で指す。
塞がれていなかったその階段に向かって走り出した二人を、数秒遅れて追おうとした一部の隊員。
その隊員たちへと、ハリーが声を上げた。
「…今は行くな!」
「……?」


――――――――――――――――――


23時30分。

立ち並ぶビルが川の向こうに見える木々の下に、微かな月明りに照らされた少し大きな人影がある。
「…夜遅くだけどすまないな、事件について伝えたいことがある。」
その人は、軍隊の隊長であるハリーであった。
「カルロスは無事確保した……あぁ、それで、二人とも、無事だ。」
彼は少し特殊な色をした携帯機で、それを伝えるべき相手と、通話をしていた。
「彼女は…奴に抱えられて行ったよ……どこに行ったかまでは、さすがにわからないな。」


数本の街灯と月明りだけが照らす街の一角で、兄妹……ユイレンとユイランの二人は、建物の外に出ていた。
ハリーから報告を受けた二人は、いてもたってもいられず、外へと出ていたのだった。

「…ホントにここに来るのかな……」
「わかんない……けど待つしかないでしょ…?」

そして、しばらくすると、二人の祈った通り。
いなくなったミミドリと、彼女を抱えて歩いてくる、クールの姿があった。

「…もう気を失ってるよ。」
静かにそう言って彼女を渡そうとした彼に、ユイレンはこう言った。

「……一緒にいてあげて。」

......
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