五章

男の言葉と共に、カルロスが掴んでいた腕をぐいと引っ張って、自分の前に持ってくる。

「…ここに来なきゃ、もう会えなかったな。」

ミミドリは、死んだと聞かされていたクールが生きていて目の前にいることに、驚いたと同時に少し安堵した。
だが、それはすぐに消え去り、いつ自分や目の前の二人が殺されるかわからない現状に、恐怖を覚える。
ここに連れてこられたのも、きっと自分を殺すのが一番の目的ではなく、あの二人をどうにかするために利用されているんだと思った。
そして、彼が、一歩間違えれば死んでしまうような選択肢を選び抜いてここまで来たんだと思い、自分のような人間とは生きる世界もその能力も違うことと、自分がいたら足手纏いだということを考えていた。
彼はきっとそうならないために自分を突き放したんだろう。それなのに自分は…。
「……ごめん。」
何を返したらいいかわからず、彼女は泣きながら言葉を選んだ。

そんな中。
クールに銃口を向けていた男は、気が付いていなかった。
クールから少しだけ離れた位置にいる灰児が、そっと音を立てず、腰の銃を取り出していたことに。

「…もう、置いて、逃げて。」
必死になってそう言うミミドリを見て、これまでずっと引きずっていたものに決着のついたクールは、
「…それはできねぇな。」
と、そう言って笑った。

灰児が、こちらを向かない男へと、左手で素早く銃を構えようとする。

だが、そのわずかな動きで、男もすぐに気付いて灰児へと銃口を向け、お互いに銃口を向け合う形になったかと思うと、男が一瞬で引き金を引いた。

鳴り響く銃声に、一気に張り詰めた空気。
灰児の右腕からは血が流れていて、右腕を押さえるようにして耐えていた。
そんな灰児を見て、「所詮、失敗作だ」と呟き、笑うカルロス。

しかし、男がとどめを刺そうと、ゆっくりともう一度上げた腕が、止まる。
それまで耐えるそぶりを取っていた灰児が、俯いたまま「へっ」と笑い、すぐに男へと左手で銃を向け直し、難なく男へと二発の銃弾を撃っていたのだ。
衝撃と痛みに耐えているはずの彼が平気な顔で素早く動いたことに、男が驚いたときには、既にその胴を銃弾が襲っていた。
「っ!!」
強い衝撃でバランスを崩して銃を落とし、撃たれた体を腕で押さえつけて膝をついた男のスーツには、血が滲む。
その瞬間を見ていたカルロスも、目を見開いた。

男がもうカルロスを守れなくなったことを確信し、ゆっくり段差を降りていく灰児。
「知らねぇと思うから一応言っとくが…」

そしてカルロスへと銃を向け、こう言った。
「…俺は痛みを感じねぇ。あんたの実験のおかげでな。」
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