一章

序...

――――― ……あれ……?
我に返ると、目を閉じてどこかに寝ているみたいだ。
自分がどうなってるのか、何をしてるのか、よくわからなかったけど、記憶と感覚が戻ってくると、左の腹部にぼんやり痛みがあることがわかった。
…ということは。
――――― 生きてる……?
ゆっくり瞼をあけて、眩しかったけど少しずつ目を開けていくと…
――――― ここ……どこだ……?
天井が見えて、だんだんと置かれている状況が頭に入ってきた。

ここは、病院だ。自分は確か倒れたんだっけ?
どうなったか詳しいことはあんまり覚えてない…。だけど、死んだな、って思ったのは本当だな。それなのに、今は死んでない。
思わず少し体が動いたけれど、感覚はすごく重たい。

「…!」
少し体を動かしたのに気付いた、横のその人が、自分の顔を覗き込んできた。
「……わかる?」
「……?」
見覚えのあるような、ないような、顔だった。見た目も声もとっても綺麗な人。
その人の問いにうなずいたら、その人はすごくホッとしていた。
「良かった…。」
「もう目が覚めなかったらどうしようかと思った…。」
その人の後ろにも誰かいる…?とっても聞き覚えのある声だったけど…

「私たちが誰だか、わかるかな?」「…こうやって会うのは初めてだもんね。」
後ろから覗き込んできたその人も、少し顔が似ていて……双子?
あれ?ってことは…。もしかして…。



ここから、自分の、とんだ異世界転生(笑)みたいな話が始まった。

なんで?なんであのユイレンとユイランが目の前に?画面の中にいた人たちだったのに…?と思ったけど、どうやら自分がその世界にいるみたいだ。
もともと、ちょっと特殊な?能力みたいなものがあったんだけど…。まさかそれがこんなことになるとは…。全然思わなかった。
自分は、辛くなって、誰にも言わないで、何も考えないで、どこか遠くに行こうとした。でも、散々走って歩いて体力を使い切ったその先で、撃たれた。
もう死んだんだって、思った。その撃たれた瞬間に、衝撃と、たぶんショックで、残ってた体の力が全部抜けて、意識が飛んだ。

「じゃあ、このエデンに、あなたを連れてきたの、誰だと思う?」
「……え…?誰?って……誰?」
少し経って、ユイレンが聞いた。初めはわからなかったんだけど、ユイランの次の言葉で、何となく…。
「…ホントはもうわかるでしょ?言ってごらん(笑)」
「え?…えぇ…?」

もしあの場にずっと放置だったら、きっとそのまま死んでたんじゃないかな。寒かったし。

「…クール?」
「正解!(笑)」「ほんと、なんにもしなかったくせにこういう時だけいい奴なんだから…」
「う……」

そうだ。自分には、会ってみたいようで会いたくないような人物がいる。それがクールだ。自分のことなんて絶対気にしないだろうと思ってたのに。死ななかったのは、クールが自分を捜してたからだ。そして運よく、自分が撃たれたところの近くにいたからだったんだって。
そう、ユイレン達から聞いた。
果たして自分がまた動けるようになるのか、これからどうなるのかは、本当にわからなかったけど、二人が去った後から、諦めないで頑張ろうと思った。でも、一か月くらいして、歩けるようになった時、これからどうすればいいんだろう?って思ったら、すごく怖くて。
そんなときに……話があるって言われて。

「あのさ……治ったら、うちの家族にならない?」
って、ユイランが言ったときは、うまく状況が呑み込めなかったんだけど、
「オレたちのさ、妹ちゃんになってよ。」
「…ってことは……その……」
あんまりびっくりしすぎて、自分が何もしてないのに周りがどうしてそこまでしてくれるのかわからなかったから、泣いちゃって。
「…うん、そうだよね、ごめんね、いきなりで。」
「…ううん……嬉しい……」

そして、その更に二週間くらいあとに、兄妹の妹的な存在として、迎え入れてもらった。
本当にここまで振り返ると、展開が速すぎて、自分でもよくわからない…。でもあっという間だったな。いざ治ったら、ホントに生きてるんだな…って思ったけど、だんだん実感が湧いてきた。

でも、これから起こることには、まだ気づかなかったし、今何が起きてるかも、知らなかった。


――――――――――――――――――――――――――


『ワン・タイゼンが、死んだ。』
その話を聞いたのは最近だった。逃げた一人の関係者から広がったらしいが、その関係者もすぐに殺された。


こんな世界で、裏の面で名を馳せる奴は、きっといつかはそうなる。そう思っていた。
失うものも何もない。だからもうそういう覚悟をして生きることを決めた。
……はずだった。あいつに会うまでは。

俺はもう普通には生きられない。だからどれだけ平和そうな奴らを見ても、もううらやましいと思う事すら、無くなった。
こうなる前にどういう感情だったかも、思い出せなくなった。思い出すことすら、自分からすることなんかないし、ここはそういう世界なんだと、そういう生き方をするしかないと思ったときから、慣れてしまえば何も感じなくなった。
なのに、こんな俺にまともにくっついてくる奴がいるなんて、本当におかしい話だ。
最初は、周りの奴がみんなそいつのことを俺に近づけようとするんで、本当に面倒だと思った。だから相手にしなかったんだ。でも、長い時間見てたからなのか、そいつが何かいつもと違う顔してんの見ると腹が立って、変な気分だった。
そいつがいなくなったのを知って、自分でも何故そうなるのかと思うくらい、イライラして、もう二度と見られなくなると思ったら、焦った。
結局、そいつを捜して、撃たれて死にそうだったのを、こっちに連れてきちまった。

それが、2か月くらい前の話。
…だがその安堵に浸ってられる余裕も、そうなかった。ついにあのカルロスが、本気で動き出したんだ。
どういうわけか、あいつを連れてきたあとそう経たないうちに、裏の奴らを次々狙い始めた。直接カルロス本人とは無関係な奴らも例外じゃない。ワン・タイゼンもその一人だ。
何かが動いていることは確実だった。確かカルロスは世界征服も企んでいるという話をどこかで聞いたことがある。敵を片っ端から潰したいだけか?
とにかく、自分ももうすぐその標的になる。いや、間違いなくもうなってる。俺はカルロスのところに乗り込まなきゃいけないだろうな。

そしてそれは、死を覚悟しなきゃならないってことでもある。
これまでだって死を覚悟するようなことはあった…。かろうじてうまくいったか、選択肢を間違えなかっただけか。それはわからない。それに、別に死んでも何もなかったから。
ただ自分のやり方、自分の道を邪魔されるのが本当に不愉快、ただそれだけだった。
なのに、どうして…。


死ぬことを考えたら、今は、これ以上ないくらいに、辛かった。
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