怨み合いに終止符を

座って、机に肘を付いて頭を抑えながら、ふー、と息を吐くこいつが、あんまりにも辛そうだから。
祓えるもんならさっさと祓っておけばよかったと、今更後悔する。

「…横になろうか?」
「……うん…。」
どうにも解決のしようがないので、珍しくぐったりしているこいつを布団まで運んで、一緒に横になった。


数時間前。

こいつの少し離れた後ろに黒い人間が見えたもんだから、またどっかの連中が狙ってきたのかと思って側に駆け寄ったが、そうじゃなかった。
…人間みたいに見える「何か」だった。
とにかく黒くて、形ははっきりしないが、その…顔にあたる部分が、はっきりこっちを見ているのだけは、認識できる。
それがわかったとき、何か嫌な感じがして周囲に視点を反らす。また視点を戻したときには、その「何か」がある場所は、初めから何もなかったみたいに元に戻って、黒い「何か」は消えていた…。
それが何なのか、見当もつかなければ頭に入る情報も少なかった上に、自分が幻覚を見てるだけなのか、こいつが何かを拾ってきちまったのか、それもわからなかった。


こいつの具合が悪くなっているということは、これが、目に見えた証拠だろう。
ただ、それがわかったところで、果たしてこいつにそれを言うべきなのか…。

…あれが見えたのは、かつて団体組織のボスを殺った場所の近く…。
嫌な予感がする。

横になった目の前の景色。さっきまでこいつが座ってた机があって、その下側…机の右側の空間に、何か立ってる。
…くるんだこいつの胴あたりのちょうど後ろ…少し離れた辺りの空間が、黒かった。

間違いなく、こっちを睨んでるのがわかって、疑問が少し晴れたといえばそれまでだが、正直、気持ち悪い。
そして、一番気にするべきは、これからどうなるのかだった。まず、それがのし掛かっているのは、俺じゃない…。
こういうとき、そういう類のを信じる奴は、こういうのは見ちゃいけないとか、よくそう語る気がする。だが俺はそうはしなかった。

──関係無いの巻き込んで何がしたい…。なんかあんなら俺の方に来ればいいだろ…。

こいつを抱きしめて、睨んでいるように感じる部分を睨み返す。こっちを睨むそれは、一層の嫌悪感を出し始めたが、

──俺は今アンタには何もできねぇしする気もねぇよ…。

そう心の中で言い聞かせると、向こうは何をするでもなく、段々とそれを弱める。

──出てけ…。二度とこいつの前に出んな…。

それが弱まったあと、すっと消えていった。
まだ何かあるかもしれないと思ったら、しばらく心臓が落ち着かない。

あれは一体何を…。こいつを苦しめて間接的に復讐しようとでも思ったのか。
さすがに、何もしないで去っていけとは言えなかった。自分がやったことなんだから。でも、今はそうやって怨み合いに時間を使うところじゃない。せめてこいつがいないときにしよう…。そういうことが無意識に。

昔は考えることすらしなかったもの…。考えるようになったから、あれが見えたんだろう。
そしてきっとあの黒い奴も、はじめは俺が気付かないと思ってたのかもしれない。

数分の何もない静かな時間が少し怖くなりかけたとき、腕の中がもそもそ動き出して、寝てたこいつが唸りながら伸びをした。
「…体調は?」
「…治った。」
「うん。」
離して顔を覗いたら、その顔の眠そうなこと。また寝そうな声で「ん?」だってさ。

さっきまでのはどうせ嘘だったんだろうと思うことにして、そのまま額にキスをした。
1/1ページ
    スキ