ポッキー

…目が覚めたら、俺の前には錆びた金属の壁が見えた。

寝ながら少し横を向いていたらしい。
横には当然、誰もいない。
何度か抱えて寝ていた感覚がないのが、少し寂しかった。
もしかしたら、今、少し横になっていたのもその癖かもしれない。

ゆっくり息を吐きながら反対を向くと、暗い部屋で見る電波時計の日付は、11月11日になっている。
前までは日付なんて全くもってどうでも良かったのに。今は、あの、なんとも言えない顔が浮かんだ。

体を起こし、ただぼーっと、その日付を見ながら、考える。

あいつは、俺が今日のことなんて気にもしてないと思ってるだろうが、それは違う。
これまで、嫌というほど聞いてきた単語が。そのイメージが。まさか活きるときが来るとは。前までは思わなかった…。
嫌でも頭の片隅に置いておいたのが、正解だった。

……今日は、偶然にも、会う約束をしている。

数時間後、準備を終えた俺は、小さな箱を荷物と一緒に持って、その場をあとにした。


あえて、"その時"が来るまで、あいつには、こっちからは聞かないと決めた。
だいたいは聞いてこないだろうと思ってた。そういう奴だから。

だが"その時"は突然だった。
夕方になってあいつの部屋まで登り、ふと静かになって間ができたときのこと。
やけにわかりやすく緊張して、あいつが言い出した。

「…あのさ…今日何の日か知ってる?」

なんだ、いい度胸じゃねぇか。
…そう思って思わず鼻で笑いながら、
「…知らない。」
とだけ返した。
「……ポッキーの日なんだって。」
そして、そのぎこちない顔を見て、また笑いながら、「へぇ…」と返し、顔の緩みもそのままに、「…それで?」と聞き返してやった。

目の前のこいつは俺の返しに参ったのか、目が泳いで、その先の言葉が続かない。
その顔が面白くて、笑いを堪えるのがこっちも辛い。

静かに笑いながら、箱を取り出す。
「これが、どうかした…?」
さすがに何か言おうと思ったんだろう、奴は必死になって「……知ってるの?」とだけ聞き返した。
「……やるから聞いたんじゃないの?」
そして、まだ笑いながら中身を一本取り出してこう言った俺を見て、また、聞くんじゃなかったという顔をしていた。

「……そりゃあ、アンタの横にいるんだから、日にちぐらい気にしないわけねぇだろ……よく考えろよ。」

どうしても笑っちまう目の前の奴を見ながら、つまんでいたそれの端を咥えた。
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