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徒然


夜だった 人がゴミに成り済ましていた いつの夜だったかは忘れた

可哀相な子が僕を見る その瞳は大きく 白月が映る夜の湖のようだ

それは何を境に思ったことか
誰が可哀相なのか
いつから僕を見るのか
湖など多分見たこともないのに


少女はこう言って僕の手を引く " あなたは死にたくないのね でも あなたは私より早く死ぬわ " と言う

僕の姿を 夜の硝子戸が一瞬 はじく その目は鋭く 携帯の電源を切ったときの 空しい音のようだ

少女は何を言わんとするのか
僕はどうしても不良児だったが
か弱いとは言えない少女の腕の力に
夜に出歩くことの 余儀の無さを考えた
塾帰り


コンクリートの上を裸足で歩く少女
寒くはない 背中が温かい 暑い 腕が冷える 背中の汗も冷える

眼鏡がしきりに下がる


夏の終わりに 少女は 僕を 最初言った通りにした
というかそれ以外一言も話さなかった

僕は少女の中の 猜疑と優越の違いを 知りたかったし
顔もまだ ちゃんと覚えていなかった
覚えて警察の事情聴取の時言いたかったから

寂しい夜だな 夏が終わるのはいやだな なんて思ったし

少女が何を 言ったか聞き取れなかった

そう 最後の最後に 背中を地面にしたたかに打ち付ける瞬間に 僕を見て何か言った


僕はといえば
少女の声を思い出すことで精一杯で

読唇術も心得ていない
僕の目を呪って

声を思い出すこともままならない
僕の耳と頭を 呪った




それだけ

END.

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