詩
戦死した彼は泣くのを止めたそうだ
あの泣き面は汚かったが
今はもう土にまみれて汚いも何もないだろう
彼の表情はいつも晴天だった
ただ、周期的に大雨洪水を引き起こす
別人だと思われるくらいに
極端だったのを覚えている
病死した彼女は怒るのを止めたそうだ
あの般若顔は恐ろしかったが
今はもう剥き出しになった笑顔でいるのだろう
可愛らしい笑顔でいるだろうか
彼女は普段あまり笑わなかったから
不自然な笑みになってなければ良いが
どうしても意味がないことを思う
誰もが死を経験する
私も彼らと同等の死を得られると言う
ならば何故こんなにも笑っていられるのか
嘘のようで本当のことを
容易く受け入れられる能力と本能を
誰から教わったのだろう
彼も彼女も
今はもう誰でもない
それを悲しむことすら
誰にも出来ないようになると言う
名前を呼ばれた記憶が
たった一枚しか手元にない
知っているのは
それに泣く日は訪れない理由
いつ死ぬかも分からない
笑っている
意思の無い
それでいて人を欺くのには十分な笑顔
そんな中でも生きている
ただ軽い命を携えて
何のために、とか
何のためだろう、とか
深く悩むこともなく
防衛本能だけが
生きるために必死
苦痛と呼んだ過去を
無秩序に洗いながら
曇りない笑顔
だからきっと 明日も明日を生きる
答えも価値も
たとえ 死ね と呼ばれても
曇りない笑顔で