異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』

 







『──元に、戻れない…?』



ハッピーだったかどうかはさて置いて
ハロウィンカオスな夜から一夜明け
朝の時幻党じげんとうへと優人ゆうとの声が響いた───。





『いやぁ~。イノセントの奴が、僕の薬の成分表を燃やしちゃってね? 分析から始めなきゃならないから今回は解薬剤作るのに、多少の時間は掛かるかも知れないって話さ』


『そ、そんなぁ~…!』



優人はガックリと項垂れると
小さな両手で顔を覆い
さめざめと泣いた。





『もう、ホント信じらんない、あの魔王! 一体、何考えてんだか…!』



優人はポコポコと怒りに
頭から湯気を立ち上らせる。





『…でも。カタキなら皆さんに、もう討って貰ったしなぁ~……』



そうは言いつつ流石の優人も
今回ばかしはどうやらなかなか
腹の虫が治まらないらしく、
相変わらずポコポコしながら
目を吊り上げて、口を尖らせる。





『……………、』


『─?、せ、先生?? どうしたんですか? そんな怖い顔して……』



イノセントへ対し一人、怒りに
ポコポコしていた優人であったが
無言のまま何やら思い詰めた表情の
祟場たたりばの様子へと、ふと気付き
慌てて優人は言葉を掛けた。





『……優人─、』


『は、はい?』


『話がある。これから俺の部屋まで来てくれるか──?』


『…………、はい…』



祟場の声のトーンの低さに
優人は心配の色を
濃くして只、頷いた。




 
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