〈壱〉の巻 ~上弦の月夜~

 


「…ああ、ミカヅキ。すまなかったな……」
 ミカヅキから布団を退かし、運良くまだ眠りにいていたミカヅキの頭をでていた時だった。
「──ヤマトっ?!」
式神しきがみへびからふみを受け取ったらしいチヨの声だった。その声は何処どこ動揺どうようふくんでいた。
「……………」
「……?」
何か悪い知らせでもあったか…、ヒズミがミカヅキをでながらその次の行動を推測すいそくしていると──。
──ガッタァーンッ!!
「─あんの、タワケ者めがっ!」
 どんな憶測おくそくよりもはる彼方かなた上を行き、衝立ついたて半壊はんかいしながらミカヅキの直ぐまくら近くまで吹っ飛んできた。
「???」
そこにはただ無心むしんふみへと目を落とすチヨの姿があった。
「………っ…」
そのほおにはわずかに赤みが差しており、普段のチヨからは見られぬ一人の若い女の姿がうかがい知れた。チヨの目がふみの最後の一文らしきに止まり、一拍いっぱく
「……っクドいわぁっっ!!!」
ベシッ、と式神しきがみへびの直ぐかたわらへとふみ乱暴らんぼうたたき付ける。
「??、とうさま、何…?」
 そのさわぎにミカヅキが目を覚まし、ヒズミに目をこすりながらたずねた。
「──何でもないよ、ミカヅキ… (汗)」
ハッと我に返ったチヨが、いささか赤面しながら投げ捨てたふみを拾い上げる。
「──す、すまないな。ミカヅキ…。起こしてしまったようで………」
 式神しきがみへびは訳も分からずにただビクビクとし、側にひかえた黒いけものの姿のヨミはあきれ返ってそのまぶたを閉じていた。勢い余り倒した衝立ついたてを引き寄せると、チヨはもう一度ミカヅキに「すまぬ」と言い、ボロボロな衝立ついたての向こうにて、ふみの返事を書く支度したくへと取り掛かり始める。


 
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