〈壱〉の巻

 

      〈一〉





────その昔、蛇(ヒト)使いが
荒いにも程がある“一人の男”に
使役しえきされていた事がある……。





「───ほう?、白いへびとは。なかなかめずらしい」


((…………、捨て置け──。多少の物珍ものめずらしさ以外、何の利点りてんも無い、只の劣等種れっとうしゅだ…。見ての通り、いくばくとなくして、死を待つのみの身だ………))


折角せっかくへびとしてこの世へと産まれたのだ。へびなれば。へびらしく。執念深しゅうねんぶかく、生きながらえてみたいとは思わんか──?」


((───執念しゅうねん。…執念しゅうねん、とは。わらわせるな。──執念しゅうねんなんぞもってして程、生きながらえる価値のある世の中だとでものたまうのか………))


「そうだな。こう見えて私は。お前よりはるか長く生き、へびであるお前よりもはるかに執念深しゅうねんぶかくこの世に身を置いてきた」


((─────分かっているともさ。人外じんがいよ…。われらには何一つとして、所縁ゆかりも無い……。れ──…))





うつろに見開いたわれ双眸そうぼうには、初めから
相手の姿や辺りの景色らを
ながめ、映し出せる程の視力は
生来せいらいから持ち合わせてはいない。

──“死の間際まぎわ”に“何者か”と言葉を交わした。

それが果たして“言葉”と形容してよいもの
だったのかは。一度、そこで途絶とだえた
が思考と相俟あいまって真相しんそうは真っ暗な
漆黒しっこくやみの中へとけた。


 
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