〈弐〉の巻 ~馬神と犬神~

 

      〈二〉

「ヒムカどの。一体、何をなさる気で?」
 ガタゴトあやしげな音を立てる風呂敷包ふろしきづつみを背負せおわされたヒズミの声は、十二分じゅうにぶん怪訝けげんさをふくんでいた。
「まあ、そうあんずるでない。人の道に外れた様な真似まねはせぬよ」
 ミカヅキの手を代わりに引くチヨは羽織はおりをはためかし、ヒズミの前を行く。
「ヒムカどの、これから何処どこ行くの?」
「この村の神様のお庭だよ、ミカヅキ──」

 見えて来たのは、村の南に位置する一つの神社…。
 その鳥居をくぐり、三人はその境内けいだいへ足をみ入れた。チヨはミカヅキの手を離すと、その立派な御堂おどうの前へ一人進み出て足を止める。
「アカ殿どのよ。また少々、この村の豊さに甘えさせて貰うぞ───、」
 そのあるじへ、チヨがポツリとつぶやいた。サアッと風が吹き、チヨの羽織はおりと背へとらした黒髪をらした。
「……………」
フッと笑い、背を向けるとドッカリとその壇上だんじょうへ腰を下ろす。
 チヨは懐手ふところでにしていた左手を抜き、はかまへと差していた赤に金の装飾そうしょくほどこされた見事な横笛を引き抜いた。


 
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