異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』

 







──ドガガッ、ガガガガッ!!!!!!



昼下がりの時幻党
その中庭──。





──ガガガンッ!!


『………っ!?』


──シーン…


『……?』


『…………、』


『……、烈将やすひとさん…?』



烈将との修行中。
突然、烈将の攻撃が止んだ。
優人は僅かに息を切らせながら
しかし、訝しんで烈将へ
攻撃を突然止めた理由
その意を問い掛ける。





『…優人君。私め、些か思うのでやすが』


『何です…?』



烈将は表情の窺えない顔にて
ポリポリと頭を掻いた。





『何も、こんな時。修行をせんでも宜しいのでは───』


『!、何故です…? 僕が今、“女”だからですか……?』


『ええ…、その通りでやすよ。優人君──』


『…!、何を言い出すかと思えば……』



あっさりと、そう返され
優人は酷く落胆した──。
しかし、優人はキッと
烈将を見据える。





『そうゆう訳にも行かないんですよ、烈将さん…! 僕は今、一刻の猶予すら惜しいんです!』


『ほう? 何故…?』


『何故って…。だって、こうしてる間にも時間は一分、一秒と流れてる。先生は最近、何考えてるのかよく分かりませんし、氷堂指揮の動きを僕はよく知りませんし……。だから、どうしても僕。ジッとなんかしてられなくて…』


『……………、』


『──先生は僕に“この姿のままで居ろ”だなんて言うんです。でも。真木さんの薬が完成次第、僕は元の身体に戻らせて頂きますよ…? 周りの皆が命懸けで氷堂指揮を止めに行くっていうのに、僕だけこんな姿に縋って生き残りたいだなんて到底、思えませんからね。…足を引っ張るのだけは恐縮ですが。もし、囮にでもなって救えるものがあるんだとしたら幾らでも、この身を差し出させて頂きますよ。僕は』


『自己犠牲主義? 君には、まだまだ早いでやすよ』


『……、だとしても。と、いうか。揚げ足取りは止めて下さい! 僕は言い争いがしたいんじゃない。僕、何か間違ってますか? ねぇ、烈将さん…!?』


『……君のその気持ち、判らんでもないでやすよ? そりゃ。要は、心の持ちようの話ですね? しかしでやす、優人君。些か、コチラの身にもなって頂きたい。…そんな“幼気な”姿となって置きながら、普段通りに打ち込んで来いなどと。幾ら心のない化け物の私めでも、それはちょいと勘弁、願いたいものでやす』


『そ、それは…。でも、だったら一体どうしろって言うんです…! ──僕だって…、好きでこんな身体になったんじゃないっ……!!』


『おや。地雷を踏んでしまいやしたか──』


『……僕はっ、只──…、』



烈将はフッと緩い風を伴い
優人の側へと現れると
小さく震える肩へ
ソッと手を伸ばした。





──パシッ


『触らないで下さい! まだ、今日の修行は終わってなんかいないでしょ!? それに…、慰めなんて………要らないっ──!!』


『──参りましたね、こりゃ…。まさか、の展開でやすよ……。ウチの女性陣を含め、我が家の中では。君が、どうやら一番、繊細でデリケートなようで………』



烈将は優人の頬へと出来た
真新しい擦り傷をソッと
指先で撫でて苦笑を零す。

そんな内面と相反して
口先だけは一丁前に。





『……何と、まぁ。勇ましい事で─、』


『…っ、もう…! 悪かったですね……!』


──ジャラララランッ!!…


『……おや?、』



優人の霊縛の具現である鎖達が
ジャラジャラと優人の元へと
集まり出していた。

グルグルと優人をその中心に
渦を成して行く。





『───もう、放って置いて下さいっ…!』



そう、言葉を最後に…。





『──いやぁ~。こいつは、これまた完璧に…』


(─閉じ籠もってしまいやしたね……)



烈将は軽くノックをしてみるが
分厚く隔てられた鎖の壁にて
中の様子を窺う事すらも
完全に拒絶されてしまった。





『……、…っ、………、』


『……………』



巨大な殻へと耳を当てがえば
優人の啜り泣くような声が
聞こえて来るのに気が付いて、
烈将は一つ溜め息を吐くと
その傍らへと腰を降ろした。





『………参りやした。祟場さんに何と申し開きをしたものか──』


 
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