異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』









深夜の時幻党じげんとう──。

優人ゆうとは自室近くの露台に居た。
その手摺りに凭れ、夜風に吹かれる。





『……………』



──烈将やすひとさんが言っていた。
氷堂ひょうどう指揮は今までの過去の事全て
覚えていながら生きて来たんだって。
そんな残酷な輪廻転生を辿りながら
ずっとずっと生きて来たんだって。
自分が死んだ時の事も、或いは
その大切な人の死んだ時の事も全て。
さっきの先生の話を頭の中で
リピートさせている内に
いつの間にやら紛れ込んで来た
今日の昼間、烈将さんから聞いた
そんな氷堂指揮の話を思い出していた。








『────探したよ、少年。こんな所に居たのか』


『!』



低い声にビクリとし、
優人は声のした背後を
反射的にバッと振り向いた。





『…なんてね。そんな所で、そんな薄着で。風邪引きやすよ?』


『……烈将さん。脅かさないで下さい』



口元で静かに笑みを湛え
烈将は優人の元へ歩み寄る。





『眠れないんでやすか?』


『ええ、まあ…』



トンッと自らも手摺りへ背を預けると、
目だけで烈将を追い、溜め息と共に
再び手摺りへと凭れた優人を見下ろした。





『話は聞きやした。ご災難でしたようで』


『いえ。それより暫くの間、ご厄介になります──』


『何、困った時はお互い様でやす。お気になされますな』


『…ありがとうございます』



二人の間を緩やかな風が
吹き抜けて行く。





『指揮、何か仰っておりやした?』


『………。他人には、踏み込まれたくない様子でした』



優人は静かに目を伏せた。





『ほう、それで。君は一体どうするつもりでやすか、優人君。指揮の心情を尊重し、大人しく引き下がりますか?』


『いえ』


『即答致しやしたね』



烈将の声は笑いを含んでいた。





『先生や鳴神なるかみ達が氷堂指揮へ立ち向かって行く以上、俺にその選択肢はありません』


『…左様で』



そうキッパリ言い放つ優人を、烈将は
何処か面白がっている風にも見えた。





『──烈将さん、』


『はい、何でやす?』


『俺に修行をつけて頂けませんか』


『私めがですか?』


『暇な時で構いません。俺が時幻党に居る間だけでも。…俺の結界、どうも脆くて。──この通りです。お願いします』



優人は烈将へ
深々と頭を下げた。




 
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