〈壱〉の巻
『……アンタの、名前を教えちゃくれないか? それから。俺が今、置かれているこの現状も───…、』
「────私は、安部。元より人とし、この世を生き。人を外れて尚、現世に留まりこの世を生きる者。…貴方は。そんな私へと捕まって、私へ仕える従者の一人として生かされる事となった……とでも云う所でしょうかね。───名は。私の式神とし、一時的なものとして“白蛇”と当てました。」
『……………これは、これは──。随分とまた、厄介なモンに取っ捕まったもんだなァ~………』
「くっくっく…、そうですねぇ──。お生憎様です──────、」
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この世に留まり彷徨う一人の“亡霊”と
それを主へ仕える愚かな一匹の蛇として。
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『しかし──。こりゃ、なかなか悪くねぇーかもな』
「おや、何ですか?」
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現世を生き、一度は死して。
まだ。それでも、尚──…
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『────“目”だよ。…こりゃいい。……うん、色彩まで備わって』
「………蛇は。視覚に、余り特化してはいない生き物だと存じておりました──。…が。それ程までにも、お気に召されましたか?」
『俺はな。───俺は。多分、他の奴らよりも視力に関しては生まれついて劣ってた。稀に、俺みたいなのが産まれてくる事があるらしいが。その中じゃそれなりに、天寿を全うした方だとは思うぜ? ……ま。その筈が何故か俺は今、こんな所に居る訳だけどな??』
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“この世を生きてみないか”、と
アンタがそこまで宣うのなら───。
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「……、不平不満でもおありで??」
男は。蜷局を巻いた中から頭を擡げ
身振り尾振り話す白蛇に対して
軽く鼻で笑うと顔を“彼”へと寄せた。
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いつか、この身が朽ちて果てるまで……
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『────主の面も拝めて光栄だわな。』
チロリ、と。先の枝分かれした
赤い舌に鼻先を撫でられて。
クスリッと男は笑ってみせる。
「左様で──…、」
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もう少しだけの間、生きてやる────。
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