〈壱〉の巻 ~上弦の月夜~
〈二〉
朝、その気配にヒズミはハッと目を覚ました。しっかりと閉じられた筈の襖と襖の僅かな隙間から、ズルリと朽ちた縄の様なものが部屋の中へと入り込んできた所だった。
「ヒムカどの、蛇だっ!」
ガバリと布団を撥ね除け、ヒズミは素早く体を起こすと枕元の短刀へ手を伸ばした。
「──落ち着け、ヒズミ…。私の“式”だ……」 *式···式神
気怠い寝起きのチヨの声が衝立の向こう側から聞こえた。
「…娘からの文だよ──」
乱れた髪を手で梳きながら、眠そうにその蛇を手招く。ふと、此方を向いたチヨがヒズミを指差した。
「─ヒズミ、その研ぎ澄まされた精神には感服するが……」
衝立へ肘を掛けたチヨの指す先は、微妙にヒズミからはズレており、撥ね除けた布団の下へと向いていた。
「ミカヅキが、埋もれておるぞ。…可哀想に──」
「……っ!?」
「酷い父親だな……、ふぁ~…」
そうとだけ言い残し、チヨは衝立の向こうへと引っ込んだ。