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〈壱〉の巻 ~上弦の月夜~

 

      〈九〉

 ようやく、女の言っていたその集落とやらへ辿たどり着いた頃には、すっかり夜もけ、すでに村には人の気配すら全く感じられなかった。とは言え、今は一刻いっこくを争う──。
 いつしか狐達きつねたちは姿を消し、ヒズミは女とミカヅキを連れて、その集落で一番手前に位置していた一つの家をたずねてみる事にした───。
 
 
「──はいはいはい。何事かね、一体。こんな夜中にどちら様?」
夜分やぶん遅くに申し訳ない。私は旅の者だが、途中で怪我人けがにんを拾って…。その者に此処ここへ連れて来るよう頼まれたのだが───、」
「まぁ、怪我人けがにん? あらあら、どうしましょうかね。それは道中、大変だったでしょうに。…どれ。その娘さん、ちょいと見せてごらんなさい……って。─!、おや、まぁっ?! あんれ、この人っ、まさか、“ヒムカ様”じゃないのかい──??」
「……え、と?」
──バタバタ、ガタンッ、ドタドタドタ……
「何だ─。こんな夜中に何をさわいでおるんだ、お前は──…」
「あ、アンタ…! 大変だよ、ヒムカ様がっ───」
「……ヒムカ様、だと? 何だ、どうした!? …っ!、怪我けがをなされたのか!! ──しばし、その者達を待たせて置け。隣の連中を起こして来る…!!」
「あいよ。頼んだよ──」
──バタバタバタ…、ドンドン、ドンッ!!
「──おい!、起きてくれっ!! 寝とる場合ではないぞ、お前ら…!!」
──ガラッ…
「んあ~…。何事だぁ、一体…??」
「ヒムカ様だっ──、怪我けがをなされておる…!!」
「………何、だと!? そ、そりゃ、大変だっ…!! ──オイッ、お前、起きろ…!!」
 
「───本家へ、誰か急いで使いをやれっ! それと、誰かこの者達に案内を…!!」
 
 
 村の者達は女の姿を見るやいな大騒おおさわぎとなり。その集落一、大きな屋敷やしきである総本家そうほんけとやらへ、ヒズミ達はすんなりと通されたのだった──。


 
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