異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』
時幻党、祟場の部屋。
『───先生、話って何ですか…?』
優人は静かに部屋のドアを閉じると
部屋の奥へ佇む師を振り仰いだ。
不安げに祟場へと訊ねてから
ゆっくりと歩み寄る。
『今から、少し……お前には酷な事を言う──』
その言葉へふと、
足が止まり掛けた。
『………、何ですか…?』
ゴクリと唾を飲んでから
優人はカーディガンの裾を
ギュッと握り締める。
『──お前。暫くの間は、そのままの姿で居ろ…』
優人は一瞬、キョトンとし
一度、瞬いてから改めて驚いて
祟場へと詰め寄るように歩み寄った。
『……え? ど、どうして………何でですか、先生っ…!?』
見上げて来る弟子に対して
祟場は静かに視線を返す。
『……、万が一に備えてさ。…今のお前のその姿なら、氷堂指揮を撒ける…。最悪、捕まった際にもあの人なら今のお前の事を殺す事は出来ないよ。きっと。恐らく、な。あの人は、そうゆう人だ。幾らどんなに堕ちても、あの人は女、子供には手を出せない。俺は、あの人の事、そう信じてる』
飽く迄も静かな口調で
祟場は優人へそう告げる。
祟場の何処か憂いを含んだ風な
その眼差しに優人は
ゾクリと何へ対してか
おそれを感じた気がした。
祟場が自分の元からグンッと
遠ざかって行くような感覚へ駆られ
優人は慌てて祟場へと歩み寄り
その白衣を無遠慮に鷲掴む。
『…万が一、って。先生? 何…、考えてるんですか?? 何する気ですか、先生……!?』
『……………、』
祟場はそれに只、無言で返した。
優人はザーッと青褪める。
カチカチと白衣を握った手が
小刻みに震えた──…。
『い、嫌です…! 先生!? 止めて下さい!! お願いですから、考え直して下さい…!! ねっ、ねぇ、先生っ?!!』
祟場は瞬く──。
『……何、焦ってんだ? お前』
『だ、だって。先生…』
飽く迄も。祟場は
穏やかな口調だった。
だがしかし、優人の中の
不安は、未だ消えない。
『バーカ。何も俺だって、率先して死にに行きやしないよ』
『─!、………っ、』
祟場は、優人の中の不安を察する。
祟場の言葉に対し、一瞬にして
優人の瞳が潤んだのが判った。
『───本当、ですか…?』
僅かに、言葉を飲んで
祟場は小さく頷いて見せる。
自分の身を案じて来る弟子が
ほんの少しおかしかった。
『……本当。』
『…………………、』
『…ったく、何て顔してんだ──』
優しく笑みを作り
軽く首を傾げて見せる。
パクパク…と、どうやら
言葉の出て来ないらしい
弟子の頭へと手を載せると
呆れつつも今度は自然と
笑みが零れて来て
軽く溜め息を吐いた。
『だ、だって…。センセェっ……』
『──優人、』
『…っ、~~~~~~っっ!!!!』
声にならない声を上げ
遂には泣きついて来た姿に
ほんの数日前のあの晩の
コイツ自身の姿を思い出して
思わず笑わずには居られなかった。
『──馬鹿だな、全く…。もう、前みたいに一緒には寝てやれないぞ? 抱き締めてもやれないしな。…先生にしばかれる(笑)』
ギュ~ッと腰へと
腕を回し縋って来る
その健気さの滲む姿に
正直、ちょっとだけ
込み上げて来るものが
あったけど柄でもないし、
代わりといっちゃ何だが
優しく頭を撫でて置く。
照れ臭さと何なのか
どうしようもなく
笑みが零れた───。