異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』
──キィイイイ……
その背後でたった今
閉じた扉が闇夜へ
姿を散らせた───。
『────何を。彼に、言おうとしたでやすか……?』
『え?』
優人はパーカーの袖で
目元を軽く拭いつつ、
背後へと佇む
烈将を振り向いた。
無言の烈将の表情は
その長い前髪に隠れ窺えない。
しかし、何となく優人には
烈将が怒っているように
そう、見えて…。優人は
慌てて言葉を取り繕う。
『───いえ。別に、大した事じゃ……』
──ガシャンッ、………
『…………烈、将…さん──?』
時幻党の最奥にひっそりと位置する
絶対立ち入り禁止区域───…。
その向こう側は鬱蒼とした
深い静かな森の姿を模す
幻影に身を潜めた
何処までも底無しの闇……。
そこの金属製の金網へと背を預け
優人は烈将の只ならぬ気配へと
コクリと、小さく息を飲んだ──。
烈将さん?、ともう一度
呼び掛けてはみるが、
突如、優人をフェンスへと
追いやるような形を取りつつ
依然とし、烈将はシンッ…と
口を噤んだままだった。
──ギギィ……ッ、
『…………??、』
『───君という人は…、何故、毎度の事ながらそうも……』
『……や、す────』
『・・・・前々から思ってはおりやしたが、君は。───危なっかし過ぎます……、』
『?、……』
『─────自覚も、ありやせんのでしょう…? ───その様子では……。』
ギチギチッ…、と金網を強く握り締める
烈将の左手の中で鈍色のフェンスは
小さな軋みを上げる───…。
それを優人は、右耳の直ぐ
傍らへと聞きながら。
低い唸り声を押し殺し
息を荒らげる烈将の様子に気付き
一人、不味い…と汗ばむ拳を握った。
空には満月には幾分か届かぬ
オレンジ色をした月が
静かに浮かんでいた──。
“──君は、危ういでやす…………”
昔、いつか、烈将に言われた
冗談めいた言葉を思い出していた。
その、言葉の意味に。いつしか
優人は畏怖に目を見開き
身体を強ばらせる。