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異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』

 







その言葉を最後に
陣内は口を閉ざした……。
自身の右足…、恐らくは
氷堂から受けた傷口へ
ギュッと爪を立てて
思い詰めた表情で───。





「何だよ、改まって………」



そう言って笑ってみせるが、しかし──…。
黙り込んだままの陣内に遂には俺の方が
居た堪れなくなって……。普通、逆だろ?
何でお前の方がそんな顔してんだよ。





(──他人の筈のお前がさ…、何で………)















──スルッ…、トン……


「……っ、」


「…………、」


「──鳴神…??」



…俺は。陣内の頭へ手を回すと
ソッと自分の肩に引き寄せた。





「──笑えよ。いつもみたいに…。そんな、苦しそうにじゃなくて………」


「……………」


「───氷堂の馬鹿の事、止めようとしてくれて。…ありがとな。陣内──、」


「っ、ごめん─。鳴神……あの時、俺がもっと指揮の心を動かす事でも出来ていれば………」



途端、涙声になって
声を上擦らせたものだから。
視線を足元へと落として
陣内の髪を撫でた──。

掛ける言葉も見つからない。
掛けてやるべき言葉も見当たらない。

ごめん、と何度も繰り返す陣内は
新たに俺に何かを言い掛けようとして
俺の名前を小さく呼んだが、しかし。
そこで不意に言葉を途切れさせる。








「───俺、もう、帰んなきゃ……」


「?」



一拍、間を置いて
その気配に俺はハッとした。
気付くとフェンス越しの
俺達の直ぐ背後へと
こちらへ背を向けて
恐らく…、芝祈しばきがその場に
いつの間にか立ち尽くしていた。















「───鳴神、また会いに来てもいいか…?」


「当たり前だろ?」


「……ありがとう、鳴神─」





漸くいつものように
微笑んだ陣内の後ろで
暗闇へと扉が開く───。





「それじゃあ、鳴神。また──」


「ああ。またな…」



陣内は芝祈に連れられ
静かに扉の向こう側へと
その姿を消した───。

扉が夜風に舞い散る──。








「…………、」



なぁ、氷堂…。お前は今
何処で何をしている……?
どんなに時間が掛かったって
絶対に。俺は─、俺達は──、
お前の事を諦めてなんかやらない。
必ず連れ戻してやるからな────。




 
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