異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』
「鳴神…」
「ん?」
「逆に俺から一つ、訊いてもいいか?」
「…何だ?」
「今現在のこの現状を…誰が、何を。鳴神。君は一体、何処まで知っている……?」
陣内のその表情からは
彼が何を考えているのか
窺い知れなかった。
「氷堂との一件については……もう、協会の大抵の人間なら、恐らく───」
「…そっか」
陣内は途端、ガックリと項垂れると
その後で今度はベンチへ凭れて
全身を預けながら空を仰いだ。
「……そっかぁ~」
そのまま暫し、陣内は
星空を見上げつつ
深い溜め息を零した。
「でも、よかった──」
転じて。
思わず自分の口から零れた言葉へ
ハッとし、俺は慌てて前言を
撤回すると言葉を繕った。
「──あ、いや。そのっ…、良くは……ないんだろうけど。…でも、俺。お前の姿、見て。正直少し、安心したっていうか………」
「………うん」
「ごめん…」
俺の言葉を飲み込むように
陣内はゆっくりと
伏せた目を瞬く。
「いや、いいんだ。──それより。俺の方こそ、心配掛けたみたいで悪い。俺なら平気だよ。こうして、ピンピンしているし───」
「…そっか、」
そう言って陣内は伏せていた視線を
漸く上げると微かに笑んでみせる。
それに俺も笑みを作り相手へと返した。
「…………、なぁ。鳴神」
「うん?」
「……っ、いや。何でもない…」
「…………………、」
“氷堂を、助けてやってくれ──…”
そう、言おうとしたんだと思う。
陣内はそれっきり「一体、誰に向かって
んな事、吐こうとしてるんだ……」と
小さく独りごちると、顔を覆った。
「…俺が。わざわざ、こんな事を頼まなくたって。──鳴神が…、氷堂指揮の事……放って置ける筈がない事くらい……、俺だって………そのくらい、知ってる────」
「…………、」
「でも─。それでも。……尚、願うよ。…俺っ、何の役にも…………立てない、だろうけど…さ。……何でも。何だって…、する、から……。───だから…、だから……さぁっ─────……」
……俺は、陣内の横顔をジッと見詰めて。
その言葉の先を無言で見張る───。
「──頼むよ、鳴神…。俺には、あの人を………止める事が、出来なかった────、」