異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』
『──だがよ、』
『あの、イノセさっ………』
『お前は、そんなものに頼りはしない。俺のどんな甘い誘惑にも屈しはしない。そんなお前に、俺は惹かれたんだろうが』
『……?』
『なのに。あの野郎を相手にそれを簡単に揺るがせんじゃねぇーよ、馬鹿。それは、俺の仕事だ、俺の管轄だ。俺を嫉妬させんな。狂わせるな。…ガキの癖に生意気にも程があるぞ』
『………、』
キョトンとして真っ直ぐに
優人はイノセントを見る───。
『──それって、もしかして。僕に対する激励ですか?』
『……………お前って本当。頭ん中、平和ね』
イノセントは心底、呆れたが
そんな事など全く構わずといった具合に
イノセントの肩へとその身を寄せ
優人は嬉しそうに満面の笑みで
イノセントの顔を仰ぐ。
『ありがとうございます、イノセさん!』
『…はいはい。それと。お前の結界だが、ノーマル属性は何者にも属さない。単純故に悪質で、なかなか厄介なもんだぞ? 質素な癖して強情で頑ななまでに頑丈だ──…』
『本当、ですか? わぁーい、イノセさんに褒められたぁ~♪』
──むぎゅー
『おおよ──。(単純な奴め…。やっぱり、阿呆だなコイツ………)』
『──あ。僕、
『…………、』
──クィッ…
『?、あ。イノセさんも、ご一緒します? 愁水先生も、お部屋にずっと一人きりじゃきっと寂しいでしょうから、イノセさん、お話し相手にでもなってあげては頂けませんか?』
『………俺は─、』
『?、ああ。何か先約でもありましたか? それでしたら………』
『─ん。いや、いいわ。俺も行く。…その代わり。暫くの間はお前も、もうちょっと居ろよ』
『?、はい…』
『おし。じゃあ、決まり───』
イノセントは立ち上がり
中庭へ背を向けると
優人の手を右手へ
取って歩き出す。
『────お前の手は、温かいねぇ…』
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