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異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』

 







『──何だか…。元気、無くないですか? イノセさん……』


『んー? そう見えるか?』


『………ちょっとだけ──、…あ、でも。僕の勘違いだったら、ごめんなさいっ……』


『んー、そうね。元気、無いっていうか。流石に、ちょっと疲れたっていうか』


『……そうですか、』



あの襲撃事件から
まだ間もない。
時幻党の負った傷も
完全には癒えてなどいなかった。








『………あ、のっ…』


『はい?』


『──こんな時に、こんなお話をするのもどうかと思うんですけど…』


『何?』


『………犬神いぬがみさんがイノセさんと交わした契約って、どんなものなんですか?』


『─────、』


『あ、そのっ…、そうゆうのって契約者とイノセさん二人だけの秘密事項であって、他言厳禁な事は知ってますけど………、』



イノセントの視線が
真っ直ぐに優人を射抜く。





『───ひょーどー、か…?』


『……っ、』



イノセントは一度、目を閉じ
ドッカリと座り直すと
冷めた目で空を見上げた。





『──あの日から。もう、だいぶ経ちますし。そろそろ、指揮の方にも、何か動きがあるんじゃないかと』



優人は小さく膝を抱える。





『……なのに。僕は、相変わらずですし。こんなんじゃ駄目な筈なのに───、』


『焦りから、自ら悪魔に魂を売るか?』


『…………………、』


『俺は一向に構わなければ。寧ろ、お前が俺の手中下に…だなんて、万々歳でお迎えするが………お前、そんな玉か?』


『────氷堂ひょうどう指揮は、莫大な冷気を扱います。それへ対抗するには、絶対的な火力を以て対抗するのが得策かと。指揮は炎も得意とはしてますが……そこは、火を以て火を制すれば。若しくは、と───、』


『…ククククッ』


『イノセさん…?』


『いいねぇ。利口だねぇ…。ひょーどーとらしてくれんのかぁ? その後で、お前は俺の玩具になってくれるって? 他でもねぇ、良い話だなぁ───』


『……………っ、』



腕を掴んで強引に引き寄せ
ポケットから出した右手にて
優人の頤を掬い上げる。




 
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