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異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』

 







とある春先の事───。


ある日の、午後の時幻党じげんとう
その中庭で優人ゆうとは一人
立ち尽くしていた。

吹き抜ける風は
まだ、冷たい──…。





『………けつ─、』


──ッ、……!!!



優人を中心に光が球体を成す。
光は膨張し、中庭を包み込んでいく。
風も音も止み、静まり返った空間を
優人の力が満たしていった。





『…………………、』



形状、スピード、複数化、強度。
多重結界へ螺旋結界を組み込んで
応用式と張り巡らせた鎖にて
更なる結界の強化と、その骨組みを。
形成と解除を幾度なく繰り返し、
余分な物を排除し簡易化へと徹す。
強度を重点に、更に圧された霊力は
また一重、また一重と連なり
その力を増していった。








──と、

不意に優人は振り返る。
中庭への扉の前で立ち尽くす
その人物へと小さく笑って
中庭を覆う五十二枚目に
差し掛かっていた結界
を静かに畳んだ。





『───すみません。気付かなくって』


『いえいえ、僕の方こそ。邪魔するつもりじゃなかったんですが』



その人物は、僅かに
中庭へ足を踏み入れると
直ぐ足元の階段へと腰掛けた。





『……イノセさん。身体の具合、如何ですか? まだ、傷は痛みます? 動くようにはなりましたか?』



サクサクと雪の微かに残る芝生を踏んで
優人はイノセントへと歩み寄る。
澄んだ昼下がりの午後の風が
優人の肩へ垂らした髪を
軽く攫って靡かせた。





『また、一人か。芝祈しばきの奴は?』


『留守です。出掛けてます』


『あ、そ。んじゃ、センセーは?』


『今は居ません。お仕事です』


『へぇ~…』



イノセントは上の空な様子で
それへと返した。





『イノセさんも今、帰ってらしたんですか?』


『そー』


『お昼ご飯は、お食べになりました? キッチンに取ってありますよ、イノセさんの分』


『いつも悪いねぇ~』


『いえ』



ニッコリと微笑んだ優人の手へ
イノセントの手がスッと優しく触れる。
優人は、何の躊躇いもなく促されるまま
イノセントの隣へと座り込んだ。





『……………、』



ふと、上着のポケットに
突っ込まれたまんまの
イノセントの右手が気になった。





『…あのっ、イノセさん──、』



ハタッと、動きを止めてイノセントが
優人の顔をマジマジと見つめ直す。





『…何? 寂しかったか? 何だっけ? ……ギュッとして欲しい? ククッ、だったら。ほら、目ェ瞑れよ───』


──グッ…


『ヤダッ! 違う、違う! そういう事じゃなくって……!!』



俯き、軽く赤面し
優人は視線を泳がせる。
胸が無駄に高鳴って
気を許してさえしまえば
“フリージア”がまた
暴走してしまいそうで
優人は必死に冷静を
保とうとした。

今の自分は、飽く迄も
陣内じんない優人”として話している。




 
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