異邦人大系 (+版) 二章『秋の風へ吹かれ』
日が早々と暮れ始める。
午後となり、風が変わって
やがて、雨が静かに降り出した。
『───優人君。ウチへ入りやしょう。風邪を引いてしまいやすよ…?』
『…………………、』
『─優人君……、』
『……お先にどうぞ。僕の事なら、放って置いて下さい…。少し…、このまま……、頭を冷やしたいんです───』
烈将は冷たい雨に打たれながら
コートのポケットに両手を突っ込み
優人の鎖の殻へ改めて歩み寄ると
コツリ、と額を当てがった──。
『………、何も。烈将さんまで一緒に……濡れなくてもいいんです…』
『……………、』
『…………烈将さん…。本当に……僕の事なら、気にしないで………』
『…………………、』
『……先に時幻党ん中、入っていて下さい───、』
静かに雨が降りしきる。
『私めが、そんな薄情な男に…、見えるでやすか……?』
『…………………………、』
──パッ…
『……………、』
小さな光の盾が空へと開き
烈将の上へ傘のように雨を遮った。
『…人へと気を配れるくらいになったって事は、頭の方もだいぶお冷えになりやしたのでは──?』
『…………………、』
『……優人君。女性の身体ってのは、冷やしてはならないんでやす…。こんな、冷たい秋の雨に打たれて物思いに耽るなど、厳禁でやすよ…?』
『……………、』
『──私めの上のコレは結界でしょうが…、君のは恐らく“只の霊縛の具現”でやしょう? こちらからは窺えませんが……雨の方はちゃんと凌げているんでやすか? …そろそろ、いい加減にして出て来てはくれますまいか………』
『………もうっ、優しくしないで──、』
『…………………、』
『──今、顔がグチャグチャでっ…、出て行けないんですから……』
『…………………………、』
烈将は暫し思いを馳せてから
ゆっくりと静かに数歩、後退った。
『──やっぱり、僕…、もう少しだけここに居させて下さ………』
──バリィッ!!
秋の時幻党の中庭へ
稲光が走った──。
…………………
……………
………
ゆっくりと優人の鎖達が
宵闇の中へと静かに
その姿を散らして行く──。
烈将は雨に濡れた芝生の上へと
その身を投げ出した優人に
無言で歩み寄った。
烈将の
軽く意識の飛んでしまった
世話の焼ける我が家の末っ子君を
ソッと腕へと抱え上げる。
『…日が、暮れやした。タイムオーバー。本日の修行は、ここまででやす───、』