異邦人大系 (+版) 一章『不穏との遭遇』
「部外者が─。そこは土足でズカズカ踏み荒らしてくれんなよ」
──ガチャリッ…
「…………っ…」
銃口を突き付けた側
突き付けられた側との
視線が交わされる。
全て判ったような口振りで
人の決心を土足で踏み荒らす
この少年が、増してや
それが自分の対極である
祟場の弟子であった事、
更には今回の自分の目的をも
容易く揺るがしてしまいそうになる
部外者である筈の優人が発した
数々の言葉が、今の氷堂には
どうしても許せなかった。
「……生意気な口を利きました。謝ります」
呆気ない謝罪へ思わず冷静になり
撃った事を一瞬、後悔したが
それが恐怖からのものでは
ない事を理解して、氷堂は
ますます対応に戸惑った。
プキキキ、プキキキと
奇声を上げるプンスカを制し、
向けられっぱなしの銃口の先で
一度は目を伏せた優人が
また静かに視線を合わせる。
優人の真っ直ぐな眼差しに
氷堂は暫しの沈黙の後
ゆっくりと銃口を引いた。
昔からこういった類いの
眼差しには弱い───。
「…なんてな。俺だって気付いてるさ、それくらい」
「……氷堂指揮」
優人は立ち上がろうとして
受けた傷の痛みに小さく呻いた。
「──それ、少年に対するハンデね。君、なかなか油断ならないから足枷代わりだよ」
「買い被り過ぎですよ」
優人の太腿から
まだ出来たばかりの
小さな血溜まりの中へと
血が滴って落ちた。