異邦人大系 (+版) 一章『不穏との遭遇』
「──ゲホゲホッ」
いきなり強く貫かれ
足元へ崩れ落ちながら
優人は激しく咳き込んだ。
気付くと優人は屋上に居た。
「…君、意外とタフね。黙って落ちてりゃ楽になれたものを──」
「………?」
「可哀想にな。もっと力込めりゃよかったか。悪かったな」
その人影は、銜えていた
煙草に火を付ける。
一度深く吸い込むと
紫煙を吐き出し
言葉とは裏腹、
悪びれる様子もなく
自分の足元へ蹲る優人へ
そう、声を掛けた。
雲の切れ間から差した月明かりに
その人物の姿が明らかとなる。
「……氷堂指揮っ」
サングラスのズレを
直した際に見えた
指揮の両眼は
瞳孔が鋭利な輝きを
放っており
彼に取り憑く何者かの
それを露わにしていた。
「久し振り…、でもないか。少年」
煙草片手に優人へ笑い掛ける。
「……あの時、君。祟場くんに付いて来てたもんね」
──ゾクッ…
「気付かないとでも思ってた?」