異邦人大系 (+版) 一章『不穏との遭遇』
──パリパリッ…
「逃げるが勝ち、ってね──」
遠くで指揮の「おい、コラ、祟場!!
逃げてんじゃねぇーっっ!!!!」て
声が轟いていたものの、そんなの
知ったこっちゃないんだよ。
優人の結界がそれに優れていたのも
俺の逃げ足が早いのも、長所だ──。
「…さてと」
家に迂闊に帰れないってのが
今回の困った点かね───。
「今夜、チャーハンだったのにね…」
──ギュルルル~
腕に抱えた優人の腹が鳴って
二人は顔を見合わせた後、笑った。
「先生、稀に見る格好良さだったです!」
腕の中、その興奮から覚めやらずに
自分を見上げた弟子を抱えたまま
トサリッと夜の街並みを足元に
祟場はビルの屋上の貯水タンクへ
背を預けて座り込んだ。
「センセ…?」
ギュッと腕へ力が込められる。
───下手をしたら、本当に
殺される所だったんだ……。
優人の受けた傷口からは未だ
血液が零れ落ちている。
指揮は本当に今回で勝負を
決める気だったのだろう。
あそこで自分が必ず勝てる自信など
正直、微塵たりとも無かったし
何よりその間に優人が重体に陥る事を
祟場は既に血塗れだったあの場を
目にした時から何よりも恐れていた。
あの日、あの時の親友達の死と
相俟って小さく震えすらした。
「……………」
「どうかしました?」
キョトンとする人騒がせな
手の掛かる弟子に呆れて
心の中で一区切り付けると
全く、と溜め息を吐いてから
祟場は笑顔を作った。
「稀は余計だよ───」
そう言って目を細めると
祟場は、コツンと軽く
優人の額を小突いた──。
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