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〈壱〉の巻

 

      *

「──あさひの方様が?」
「ああ。近年、度々、とこす事はあったが。年の前からか。余り、かんばしいとは言えぬ状態にある」
 あさひの方、とは。輝明こうめいの妻であり、安部あんべ一門を陰ながら支えてきた人物である。良妻賢母りょうさいけんぼな陰の立て役者。内助ないじょこうにて長年、決して仲の良いとは言えぬ輝明こうめいら兄弟をまとめ上げ。また、一族へと身をにしくしてきた女性でもある。──後妻ごさいの子、と。兄弟達の間にて爪弾つまはじきにされていた清明せいめいにすら優しく接してくれたものであった──その、あさひ様が病床びょうしょうしておられるのだと言う。
「話の方は、飲み込めました。兄上、もう少しばかりあさひの方様の病状について詳しくお聞かせ願えますか」


 
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