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冷静と情熱の効果

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妄想を拗らせた結果達です。
キャラ×オリキャラ(自分)となっておりますので、苦手は人はスルー推奨です。
楽しんでいただきたいので、マナーは守って下さい。
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 アレが無ければ良い人は、アレがあるから駄目な人。
 荀攸から見て、付き人として雇った千代はまさにそういう類いの人間だった。
 仕事に対しては、素直に優秀だと評せる。
 細かいところまで気がつくらしく、千代を雇い入れて数日、荀攸は以前のような不便に悩まされる事が無くなっているのだから。
 大抵の事は荀攸が口に出す前に片付いている快適さ。
 円滑に執務に没頭できるおかげで、作業効率は飛躍的に上がっている。
 問題は千代の性格だ。
 初対面の時に、死体のフリをして荀攸を驚かせた謎の感性は最低でも日に一度は必ず披露される。
 流石に荀攸が禁じた事は繰り返さないが、次から次に茶番やイタズラが繰り出されるのだから、毎度被害者になる荀攸はたまったものではない。
 何故、自分の執務室で緊張しなければならないのか。
 まったくもって理不尽な状況は面白くない。
 昨日はちょっと席を外して執務室に戻ったら、何故か手ぬぐいを振り回して踊り狂うう千代の出迎えを受けた。
 一昨日は文箱の中に春画を入れられていた。
 今更春画の一つや二つで動じる荀攸ではないが、千代が横から「きゃーっ。荀攸様の助平!」などと囃し立てられた。
 一昨昨日は、執務室の床に人形を置き、犯罪現場の再現をしていた。人形がやたらと緻密な作りだったのが、腹立たしい。
 これまで受けた数々のイタズラを思い出すだけでも腹が立つ。
 だが、付き人から手の込んでいるのかいないのか分からない謎のイタズラを受けて困っているなど、誰かに相談するのは荀攸の矜持が許さない。
 大抵の人間・・・荀攸でもそうだが・・・は、このような内容の相談を持ちかければ、あっさりと付き人を解雇するべきだと答えるだろう。
 そして、間違い無く荀攸の威厳に疑問を抱く。
 雇っている付き人から舐められているなど余人に知れれば、荀攸の社会的な立場に悪影響を及ぼすのは必須。
 郭嘉あたりであれば、千代の紹介者であるから、相談すれば話は聞いてくれるのだろうが・・・・郭嘉の場合、千代のそういった性分を気に入っている様子なので、相談したところで良い助言が出てくる可能性は極めて低いだろう。
 荀攸も頭では分かっている。
 気に入らなければ暇を出せば良いのだと。
 しかし、千代の仕事ぶりは気に入っているし、何よりも千代は文字の読み書きを習得している。
 一般常識を無視した謎の付き人は、女にしては珍しく高水準の文字の習得をしていたのは、荀攸にとっては嬉しい誤算。
 いちいち別室で仕事をしている見習いの文官を呼びつけて、書庫に資料を取りに走らせなくとも、傍で控えている千代に命ずるだけで事が足りるのだから便利である。
 仕事に関しては、本当に有能なのだ。
 本当に、あの謎のイタズラと遠慮の無い物言いさえなければ、どこに出しても恥ずかしくない自慢の付き人として荀攸も誇れるというのに・・・・。
 竹簡を小脇に抱えて回廊を歩きながら荀攸はうっそりと溜息を漏らした。
 今から問題の執務室に戻らねばならないのは、気が重たい。
 どうせ、またぞろ千代が下らない事をやらかすのだろうと、分かっているから気が重たい。
 まぁ、言って聞かない娘ではないし。
 謎行動の多い千代ではあるが、一応は荀攸が禁止した事は繰り返さない。
 ちなみに、死んだフリは荀攸が禁じなければ、死因を変えて繰り返すつもりであったというから、最初に禁じておいて正解だった。
 十分に警戒心を持って、どんな下らない事が起きても感情を表に出さない心の準備を素早く行い・・・この数日で身に付いた・・・荀攸は無造作に執務室の扉をあけた。
 しん、とした静寂が荀攸を迎える。
 平素と変わらない表情で素早く荀攸は執務室に視線を巡らせる。
 荀攸が出かける前と違うといえば、執務室にある仮眠用の寝台の周りが妙に生活感があふれているという事くらいだろう。
 滅多に使わない場所ではあるが、千代は雇い入れられたその日から熱心に手入れをしていた。
 千代の姿はどこにもないし、潜んでいるような気配も感じない。
 仮眠用の寝台の手入れをしている途中で厠にでも出かけたのだろうか?
 僅かに緊張を解いて荀攸は執務机へと向かう。
 執務机の上は相変わらず整理整頓が行き届いている。
 荀攸が出かける前は、かなり乱雑だった。
 墨もきちんと補充されているし、筆の柄に付着していた墨も綺麗に拭われている。
 本当にこういう面では良く気の付く付き人だ。
 感心半分、呆れ半分といった心持で荀攸が小脇に抱えた竹簡を執務机に置こうとした時、背後で「ぎぃ」と軋む音がした。
 執務室の扉が軋んだ音だろう。
 しかし、今は扉を動かすほどの風もない。
 即座に荀攸が身構えた。
 情報を盗む目的で潜入した密偵が相手であれば、命を奪わずに身柄を捕縛する必要がある。
 将には及ばずとも、戦術家である以上、それなりに武芸に覚えがある荀攸は素早く武器として小刃に手を伸ばす。
 本来は竹簡の書き損じを削るために使うが、使い方では十分な武器にもなる。
 気配の察知に遅れたという事は、手練である可能性が高い。
 無理をせずに、まずは手傷を負わせるのが上策か。
 手傷を負わせれば追跡も容易い。
 侵入者を生かして城から出してやるつもりなど毛頭ない。
 油断せずにゆっくりと荀攸は振り返る。
 既に頭の中では幾通りもの侵入者を追い詰める計画が廻っていたのだが・・・・。
 「・・・っ!」
 普段は切れ長の涼しい目元を僅かに見開いて、荀攸は己の思考が甘かった事を後悔した。
 そこに立っていたのは、情報を入手するために潜入した密偵などでは無い。
 頭に麻の袋を被った千代だった。
 薄汚れた麻の袋をすっぽり被って、視界を確保するために目に小さな穴をあけており、御丁寧に手には小さな斧。
 相手が大男であれば、きっと荀攸も驚きのあまり叫んでいただろう。
 こみ上げる驚愕の叫び声を呑みこめたのは、千代が小さな少女だからである。
 格好こそ物騒かつ恐ろしくはあるが、ちょこんと立っているだけなのでなんだか迫力が半減してしまっているのが、何とも言えない。
 襲いかかるわけでもなく、ただ立っているだけなのだ。
 それでも荀攸の心拍数を大いに跳ね上げる事に成功はしているのだから、イタズラとしては成功したと言って良いのだろう。
 驚かされた反動で荀攸は無言で頭から麻袋を被り小さな斧を装備している千代に冷たい視線を投げかける。
 「いい加減に怒りますよ。」
 本気で警戒した自分がなんだか馬鹿みたいな気分になりつつ、荀攸は普段よりも幾分か低い声音で千代に言う。
 「怒らないで下さいよ。」
 くぐもった声が麻袋から漏れる。
 こちらは平素と変わりない声音なので、悪びれてはいないらしい。
 「不審者かと思って身構えた自分が馬鹿らしい。」
 「不審者なら私がサクッと捕縛しといたんで問題ありません。」
 「は?」
 相変わらず麻の袋を被った千代があまりにもあっさりというものだから、荀攸は思わず間抜けな疑問符をあげてしまった。
 「不審者が侵入したんですか?」
 「多分、不審者だと思います。
 今日のイタズラ準備してたら、黙って室内に入ってきて、こそこそ物色始めたんで・・・とりあえず、縛って口に布詰めて、そこの長持ちに収納してます。」
 すっと千代の細い指が示すのは荀攸の執務室の一角に置かれている長持ちだ。
 執務室の備品の一つであり、荀攸は使う事が無いが、なるほど確かに中身が入っていなければ、人の一人くらいは押し込める事ができるだろう。
 仮にも曹操軍の軍師の執務室。
 誰でも彼でも出入りができる場所には無い。
 当然の事ながら、荀攸の執務室にたどり着くまでには厳重な警備を掻い潜る必要がある。
 意図的に誰かが泳がせている密偵、というわけではなさそうだ。
 その手の話があれば、確実に荀攸にも報告されるだろう。
 であれば、千代が捕まえたという侵入者は、密偵でも何でも無く誤解されて捕縛された無実の誰かか、よほどに時間をかけて念入りに潜入をしていた密偵のどちらかだ。
 「武装は?」
 長持ちをあける前に荀攸は千代に確認をする。
 この小柄な娘が密偵を捕縛したとは俄かには信じがたいが、真実密偵であればもっとも気をつけねばならないのは、こちらが確認作業を行う時だ。
 捕縛しているからと油断して不用意に接近して命を落とした例など珍しくもなんともない。
 「筆に針を仕込んでたくらいです。ほら、コレ。」
 「貸して下さい。」
 ごそごそと着物の袂を探って一本の筆をとりだす千代に、荀攸は手を伸ばす。
 「気をつけて下さいよ、多分毒が仕込んでありますから。」
 筆を手渡しながら忠告する千代に荀攸は「おや」と眉を動かした。
 「何故、そう思うのです?」
 「何故って、そりゃぁ、ねぇ。
 この手の武器は毒を仕込むのが基本じゃないんですか?
 熟練者になれば、こんな針一本で人を殺す事も可能なんでしょうけど・・・・想定外の殺傷で的確にこの程度の武器で敵を始末できる人なんて、そう滅多にはいませんよ。
 相手を害するというよりも、機密漏洩を防止するための自殺用に持ってたって可能性の方が高くないですか?」
 千代の見解に荀攸は内心で驚いた。
 麻袋を被っていなければ、その分析力に対して称賛の言葉を与えていたかもしれない。
 「私の姉上が教えてくれたんですけど、本当に腕の立つ密偵というのは武器なんて持たないそうですよ。
 見つかって困るものは一切持たない。
 その方が任務達成率が上がるそうなんです。
 もっとも、そのくらいの仕事ができる密偵となると、数えるほど程度だとも言ってましたけど。」
 「・・・その通りです。
 意外です、貴方がそんな事に明るいとは。」
 素直に誉めるには、聊か千代の格好に問題がありすぎるので、荀攸は驚きを素直に口にするだけにとどめた。
 一体いつまで麻の袋を被っているのだろうか?
 とりあえず、今するべきは長持ちの人物に然るべき処置をする事だ。
 筆に仕込まれた針に触れないように注意を払い確認した後に、荀攸は長持ちに接近した。
 本当に密偵であれば、武官の一人でも立ち合わせた方が良いのだろう。
 しかし、武官はなにかというとすぐに殺したがる者が多いのも事実。
 首尾良く密偵を捕縛しているのであれば、多少の抵抗があったとしても生かして持っている情報を引き出したい。
 何よりも、未だ無実の人だという可能性も僅かではあるがある。
 仮に相手が無実であったならば、荀攸は己の付き人の不始末を詫びねばならない。
 毒の仕込み針を持ち歩くような人間が、無実かどうかは非常に怪しいが、万が一に千代の不始末であった場合は、他人が立ち会っているのは都合が悪い。
 長持ちの前に膝をつく。
 緊張しているせいか、口が妙に乾いた。
 千代の捕縛が甘ければ、既に密偵は長持ちの中で縄から抜け出し、反撃の機会を虎視眈々と窺っているかもしれないのだ。
 冷たい汗がこめかみを滑る。
 そっと音を立てないように長持ちに荀攸は手をかけた。
 ごくりと唾を飲み込んで、意を決して荀攸は長持ちの蓋をあけて中を確認して、再び長持ちの蓋をすぐに落とす。
 中からごそごそと音が聞こえるが、とりあえず無視をして荀攸は長持ちの蓋の上に腰を下ろして腕を組む。
 「何ですか?あの縛り方。」
 ゴンゴンと中から叩く音が聞こえる。
 未だ麻袋を被ったままの千代は、こてっと小首を傾げて見せた。
 「いい加減、麻袋を脱いで下さい。」
 荀攸はこめかみを指でほぐしつつ千代に指示する。
 何がしたかったのかは聞かない方が良いだろう。疲れるだけだ。
 「脱いで下さいって、荀攸様ったら助平なんだから。」
 「本気で怒りますよ。」
 何が悲しくて麻袋を被った娘から助平呼ばわりされねばならないのか・・・・これ以上、何か余計な事を言ったら本気で叱り飛ばそう。
 荀攸の決意が伝わったのかどうかは定かではないが、千代はあっさりと麻袋をぞんざいに脱ぎ捨てた。
 「はぁ、息苦しかった。」
 「なら、最初からそんな汚い麻袋被らなければ良いんです。」
 よほどに麻袋の中は暑かったのか、血色の良い頬をさらに上気させた千代に荀攸は手厳しく一言告げる。
 口をとがらせて拗ねて見せる様子は、何も知らなければ愛らしく見えるのだろう。
 まぁ、ただの愛らしい少女は不審者を捕縛しないだろうし、不審者の体に妙な縄の打ち方もしない筈だ。
 荀攸が目にした密偵は、体中縄で縛りあげられていた。
 拷問の際に使う捕縛方法は、ある種の特殊な性癖の持ち主を喜ばせる事もあるらしいと話には聞いていたが、実際に拷問の専門家でもない限りその縛り方を習得している人物を目にするのはこれが初めてである。
 あれだけ複雑に縛りあげられていれば、密偵も縄を抜けるなど出来ないだろう。
 長持ちの中の密偵がうっすら涙目だった事に対して、荀攸は少しだけ、ほんの少しだけだが同情した。
 「あんな縛り方どこで覚えたんです?」
 「色街で教えてもらったんです。」
 色街・・・また、年若い娘の口から出てほしくない場所が出てきたものだ。
 色気と縁遠い千代と、色街という場所がどうにも一致せず荀攸は数度瞬きをする。
 「小さい時、姉上が色街の見世で用心棒をしていた時に、そこの芸妓から教えてもらったんです。
 覚えておいて損は無いからって。」
 私がこのくらいの時に、と千代が随分と低い位置に手をやる。
 荀攸は眩暈を覚えた。
 幼い子供が色街で過ごすなど、荀攸の常識には無い経歴だ。
 特殊な縛り方の習得者が居る見世である・・・・十中八九、色々と特殊な事を売りにしている見世だろう。
 色街と無縁ではない荀攸も、その手の見世とは流石に縁が無い。
 「郭嘉様も上手だって誉めてくれたんですよ。」
 「郭嘉殿の所にも密偵が入ったんですか?」
 そういえば、千代は自分の付き人になる前はどう過ごしていたのだろうか?
 今更過ぎる疑問が荀攸の脳裏をかすめた。
 郭嘉の知人の妹で、悪質なイタズラが好きで、仕事ができる。
 初対面以来、荀攸が得た千代の情報などその程度。
 雑談をするような時間が無いというのが大きな原因ではあるが、日頃喋る時は下らない事ばかり喋る千代は意外にも自分についての事はほとんど話さない。
 郭嘉が面倒を見ていたらしいが、正直なところ郭嘉とそれなりに付き合いをしている荀攸の目に千代が映った事は無い。
 郭嘉の付き人をしていたのであれば、顔を合わせていない方が不自然だ。
 「密偵なんて上等なモンじゃありませんよ。
 郭嘉様が遊びで手をつけた女が、しつこく付きまとって挙句の果てに郭嘉様の御屋敷に侵入したんです。
 で、偶然にも下働きしてた私が見つけたんで、一応縛り上げたってだけなんですけどね。
 郭嘉様が娶ってくれないなら、郭嘉様を殺して自分も死ぬとか喚かれると、流石に迷惑じゃないですか。」
 なるほど、郭嘉であればそのような出来事があっても何ら不思議はない。
 「ということは、貴方は郭嘉殿の屋敷で働いていたんですか?」
 「そうですよ。
 郭嘉様としては、姉上を自分の護衛に据えたかったみたいですけど。
 姉上は郭嘉様に構ってる暇が無いから、代わりに私を寄越したんです。
 不埒な真似をされたら、郭嘉様のお顔の形を変えて戻ってきなさいって言いつけて。
 郭嘉様には、私に不埒な事をしたら、容赦無く郭嘉様を宦官にするって脅したみたいですね。」
 この世に郭嘉の魅力が通じない女というのも存在したらしい。
 「貴方の姉上と郭嘉殿の御関係は?」
 「飲み友達って感じですね。
 郭嘉様が酒を持って来た時だけは、姉上も相手にしてましたから。」
 あの郭嘉と単純な友情で結ばれる事が出来る異性というのは、どうにも荀攸には想像がつかない。
 だが、千代は嘘はついていないのだろう。
 守備範囲の広い女好きの郭嘉が千代に対して手を出していないのが、郭嘉の千代の姉に対する配慮を窺わせる。
 千代のざっくばらんというか、立場を弁えない物言いは、どうやらこの姉の影響が大きいらしい。
 何かと型破りな姉妹である事は、容易に想像できた。
 そういえば、千代も郭嘉に対しては割と辛辣な事を言う。
 「話は分かりました。」
 郭嘉に辛辣な態度をとれる姉妹に対して興味はあるが、今の荀攸は長持ちの中の密偵の処遇を決める方を優先させることにした。
 長持ちの中で色々と問題のある縛られ方をされた密偵は、今ではすっかり大人しくなっている。
 こちらの様子を窺って、脱出の機会を探っているのか?
 いや、あの縛られ方では脱出はほぼ不可能だ。
 千代は丁寧に密偵の自殺を防止するため布を噛ませている。
 全ての選択肢を奪われて囚われているだけの密偵は、もはやまな板の上の鯉と呼ぶに相応しい。
 「密偵を捕縛したのはお手柄です。
 自害を防止するために口に布を噛ませているのも良い対処でした。」
 ほぼ無傷で密偵を捕縛出来ているのは、千代のお手柄というしかない。
 荀攸から素直に誉められて千代の顔がぱっと明るくなった。
 「ただ、麻袋を被って斧を装備するのは今後は禁止します。
 俺以外が目撃したら騒動になりますからね。」
 「今日は、これやる予定じゃなかったんですよ。
 本当は、人形劇するつもりだったんです。」
 「興味が無いのでやめてください。」
 「絶対に後日やりますから!」
 そのイタズラに傾ける情熱はどこから来るのだろうか?
 相手にしなければいずれは落ち着くだろうと思っていた荀攸だが、先行きの不透明さに頭を抱えたくなる。
 「郭嘉様と情婦の修羅場はいっぱい見ましたから、再現人形劇をしようと思ってるんです。
 せっかく、夜鍋して郭嘉様人形を作ったのを荀攸様は無駄にしろっていうんですか?!」
 「そんな下らない事に時間を使わないでください。」
 「荀攸様の分からず屋!」
 「分からず屋で結構です。
 さぁ、仕事を始めますよ・・・とりあえず、貴方は郭嘉殿に密偵を捕縛したので引き取ってもらえるように要請してきて下さい。
 くれぐれも寄り道をしないように。
 とても重要な案件ですから。」
 千代が両手を大袈裟に上下に振って主張をするのを軽く流して荀攸は何処までも現実的だ。
 どうせ夜鍋するなら、刺繍をするとか、書物を読むとか・・・・もっと有意義な時間の使い方があるだろうに。
 ぷくっと頬を膨らませて不満を千代は主張するが、荀攸が相手にしないとばかりに無視をしてしまえば、早いうちに諦めたらしく肩を落として大袈裟に溜息をついて、首を軽く横に振る。
 その一連の仕草が妙に腹が立って、そろそろ拳骨の一つでも頭に落とした方が良いだろうかと真剣に荀攸が考え始めた。
 女相手であっても、千代であればなんとなく乱暴な叱り方をしても許されるような気がした昼下がり。
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