冷静と情熱の効果
夢小説設定
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何一つとして深刻さを含まないただの世間話をいったいどうして郭嘉が覚えていたのか理由が分からず荀攸は少しだけ首を傾けた。
「覚えていないかな?
あの時、荀攸殿が付き人が決まらなくて困っていると言っていたから、私の方から良い人を紹介しようと申し出た事を。」
「・・・あれは、酒席での世間話では?」
酒席での話を真に受けて対応をしていたら際限が無い。
確かにあの夜、荀攸は酒席で郭嘉に付き人が決まらなくて困っていると漏らしたし、郭嘉も心当たりに聞いてみようと言ってはいたが、荀攸にとってそれは郭嘉の社交辞令だと思っていただけに、この郭嘉の発言は予想外だった。
「厭だな、私はね困っている同輩を見過ごすような真似はしないよ。」
「はぁ。」
そんなに困っている様子を郭嘉に見せた覚えのない荀攸からしてみれば、郭嘉の様子に困惑を覚えるしかない。
傍目からは荀攸が困惑しているようには見えないだろうが、郭嘉にはバレているだろう。
まぁ、郭嘉や荀彧相手に感情を隠し通せるような人間の方が少ないのだろう、と荀攸はぼんやりと考えた。
「それでね、適任者が一人見つかったんだけど。」
「本当ですか?」
「私は嘘はつかないよ、嘘はね。
荀攸殿の都合が良ければ、すぐにでも寄越せるんだけれど、どうする?
あぁ、今までの付き人みたいな事は無いと思うよ。
荀攸殿が感情的に振る舞う事を良しとせず、効率的な事を重視する人だと説明はしているし、本人もそれで問題が無いと了承したからね。」
「それは・・・随分と都合の良い。」
ひょっとすると、郭嘉の関心を引きたいためにそう言っているだけかもしれない。
僅かな疑念を荀攸は言葉に遠慮無く含めた。
一級品の頭脳と容姿を持つ郭嘉は、軍師としては尊敬しているし、人間性に対して好ましくも思っているが、ただ一つ色事についてだけは信用もしていなければ、好ましく受け取れない。
暇を見つけては・・・あるいは、暇を作っては・・・女を口説く事に精を出し、連れ歩く女は日替わりである。
きっと今も、女遊びからの帰り道なのだろう。
荀彧ほどあからさまに郭嘉の素行の悪さに苦言を呈す気はないが、女癖についてだけは荀攸も眉をひそめざるを得ない。
郭嘉が遊んだ女の処分先に自分の元を選んだのだとしたら、丁重に断るべき話である。
痴情の縺れの修羅場に巻き込まれるのはごめんだ。
「そう警戒しないでほしいな。
生憎と、私とあの子は荀攸殿が考えるような間柄ではないよ。」
あっさりとした否定に荀攸は表情を変える事無く次の言葉を待つ。
郭嘉の守備範囲はかなり広い。
あの郭嘉が手をつけていないとなると、見るに堪えない程の醜女なのであろうか?
「知人の妹でね。
曹操殿に仕えるにあたって、知人に声をかけたら、妹を寄越されてね。」
「あぁ、なるほど。」
如何に郭嘉が女に手が早くとも、知人の妹であれば、知人との関係性を重視して自重するらしい。
女好きが食指を動かさない理由としては十分だ。
ここまでの郭嘉の話を纏めると、荀攸は一つ頷いた。
悪い話ではないと思ったのである。
郭嘉の手がついておらず、荀攸という雇い主について事前説明を受けた上で納得しているとなれば、懸念事項は仕事がどれだけ出来るかだ。
既に心の天秤は、郭嘉の知人の妹とやらを雇う方へ傾いている。
「能力の程はどうなのでしょう?」
荀攸が付き人に求めるのは、手早く雑用を片付ける能力のみだ。
付き人の容姿や立ち振る舞いに対して煩く注文をつけるつもりはない。
「少し個性的な感性の持ち主ではあるけれど、可愛らしい子だよ。
うん、荀攸殿とは仲良くやれると思うね。」
「いえ、そういう事が聞きたいのではなく、仕事についての能力です。」
ただ仕事さえきちんとしてくれれば良いのだ。
荀攸にとって、新しい付き人の容姿など路傍の小石程にどうでも良い事柄である。
「あぁ、それなら実際にその目で見て体感した方が良いんじゃないかな。」
「それはすぐにでも寄越して下さるという事ですか?」
郭嘉との立ち話で、荀攸の立てた時間計画は修正を余儀なくされている。
滞りなく朝の執務を円滑に行おうと思うのであれば、早急に付き人を寄越してもらって、執務前の雑用を片付けねばならない。
換気を行い、室内を大雑把にでも掃除して、執務机の上にある竹簡を選別して、墨と筆を用意して・・・・やるべき事のうち一つでも誰かがやってくれるのであればありがたい。
荀攸の問いに郭嘉は鮮やかな微笑みを口元に浮かべた。
どこかで高い悲鳴が上がる。
きっと盗み見ていた女官だろう。
「実はね、もう荀攸殿の執務室に行かせているんだ。」
「は?」
女を卒倒させる威力を持つ微笑みよりも衝撃的な一言を郭嘉は放った。
まるでちょっとした悪戯の種明かしをするように楽しそうな調子である。
「私としては能力に問題は無いと思っているよ。
ただ、私の言葉だけで決めるのは荀攸殿も色々と懸念があるだろうからね。
まずは働きを見て決めるという方が良いかと思ってね。」
だからといって他人の執務室に本人の許可無く立ち入らせるのは如何なものだろう?
咄嗟に言葉になりかけた苦言を荀攸は急いで呑みこんだ。
秘匿性の高い危険な内容の書簡は執務室では滅多に扱わないし、扱ったところで管理は厳重にするため、付き人が掃除をしているうちに誤って目にするような事は無いだろう。
郭嘉の紹介であれば、付き人候補の安全性も高い。
間違っても他勢力の密偵という事は無いだろう。
で、あれば、苦言を呈す程の事ではないと荀攸は素早く判断する。
「お気遣いに感謝します。」
これで執務前の雑用が一つでも片付いていたならば、郭嘉の判断には感謝するべきだ。
「なら、今度は荀攸殿のお勧めの酒を教えてくれないか。
ふふふ、貴方とは酒の好みが合うみたいだからね。」
艶っぽい笑い声を漏らしながら、郭嘉はさらりと荀攸の言葉を流すと、ようやく柱に預けていた身を起こす。
動くのと同時に微かに白粉の香りが漂った。
郭嘉はうん、と大きく伸びをした後に無造作に欠伸を噛み殺す。
他者に対して細やかな面を見せたかと思ったら、このように無造作な行動を躊躇無く行う。
「今から私はひと眠りして働くとしよう。」
爽やかな朝に爽やかな笑顔で怠惰な事を言う郭嘉に荀攸は思わず苦笑を浮かべてしまった。
荀彧などは郭嘉のこういった素行に対して容赦無く顔を顰めるのだが、荀攸はどういうわけか、郭嘉のそういった部分を好ましく感じている。
己では絶対に無理な事を平然とやってのける郭嘉に憧れめいた感情を持っているのかもしれないと、荀攸は自己分析を済ませると、軽く頭を下げて歩き出す。
郭嘉も要件は終わったとばかりに、それ以上は何も言わずに片手を振って歩きだした。
途端にゆったりした朝の空気から、騒々さが戻ってくる。
あちこちで墨や竹簡の補充に走る見習いの文官や、茶を運ぶ女官の喧騒を耳にしながら、荀攸は屋敷を出たときとは違った気持で執務室へと足を運んだ。