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冷静と情熱の効果

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妄想を拗らせた結果達です。
キャラ×オリキャラ(自分)となっておりますので、苦手は人はスルー推奨です。
楽しんでいただきたいので、マナーは守って下さい。
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 帝を迎えた許昌は冬の寒さをものともしていないかのように活気づいている。
 日頃は人ごみをあまり好まない荀攸が登城の無い日に、あえて人ごみに出かけている理由は、他でもない彼の付き人が原因だった。
 目が回るほどの忙しさを何とか切り抜け、春先まではとりあえず落ち着いて過ごせるようになって以来、目に見えて明らかに千代の様子おかしい。
 仕事ぶりは普段と変わらず、付き人としては文句のつけようのない優秀さだが、ふとした折に、整っている顔立ちが陰る事に気がついたのは数日ほど前の事。
 徐州侵攻の事後処理かこちら、皇帝の身柄の保護など、兎にも角にも屋敷に帰る事すらままならない忙しさであったから、当初は草臥れが出ているのかもしれない、と荀攸も思ったので、一日ほど何もせずに過ごせる日を与えてみたのだが、千代の憂い顔は全く晴れないのだから忙しさの草臥れが出ているというわけではないのだろう。
 優秀な付き人として働き、屋敷では率先して意欲的に下働きなどに従事しいる千代はパッと見は普段と変わりない。
 イタズラ好きの屈託無い明るい娘だ。
 しかし、何かの弾みにその明るさが陰る。
 琥珀色の瞳が何処か遠くを眺めている様は、荀攸にとって面白くない。
 いったい何処を眺めているのか。
 少なくとも千代がそういう表情を浮かべる時に、荀攸の存在は千代から消えているのだろう。
 かといって、あっさりと何故に千代が憂い顔を浮かべて遠くを見るのか聞けるほど、荀攸は口達者な性分では無い。
 郭嘉あたりであれば、あっさりと聞き出してしまうのだろう。
 だから、気になるならば郭嘉に尋ねてくれるように頼んでも良かったのだが・・・。
 荀攸は郭嘉に頼む事はせずに、千代を連れて街を散策している。
 「はぁ・・・何処も賑やかですねぇ。」
 賑やかな目抜き通りを荀攸にやや遅れて歩く千代が感心したように言葉を零す。
 「気晴らしに付き合ってもらえませんか?」という荀攸の誘い文句を二つ返事で承諾した千代は、荀攸が買ってやった衣装に身を包んでいる。
 せっかく、気晴らしに出かけるのならば、と話を聞いていた使用人頭が千代が「お洒落着」として箪笥に仕舞いこんでいた着物を引っ張り出して着せたのだ。
 千代の意見などまったく無視して誂えた着物だが、なかなかに似合っている。
 「大丈夫ですか?」
 あちこちきょろきょろと物珍しそうに眺める千代に荀攸は尋ねる。
 屋敷を出る前は動きにくいと苦い顔をしていた千代は、どうやら許昌の街を見物しながら散策する事については不満は無いらしい。
 「大丈夫ですよ。
 あ、荀攸様がお疲れになられたとか?」
 普段と動き方の勝手が違う事について気遣う荀攸に千代は普段の屈託の無さで返事を返す。
 どうやら退屈はしていないらしい。
 その事に、荀攸は内心で安堵した。
 何せこのように異性を連れて街を歩くなど荀攸にとっても初めての事なのだ。
 色恋沙汰は経験あれども、白昼の往来を女と歩いた記憶は無い。
 「俺も大丈夫ですよ。
 それよりも、随分と珍しい物が多いようですが、許昌の街を散策するのは初めてですか?」
 「そうですね。
 思い返せば、こうやって色々と見て回るのは初めてです。
 いつも外出するときはお使いだったんで、あちこち見て回るなんて暇もありませんでしたしねぇ。」
 この時代、少しでも見目の良い若い女であれば不用意な外出は控えるのが常識だ。
 ちょっとそこまで出かけてくると言ったきり消息を絶つ女は珍しく無い。
 白昼の目抜き通りですら、一人で歩く若い女は見当たらない。
 「退屈をしていないなら結構です。」
 特に目的を定めているわけではない散策である。
 このまま目抜き通りをのんびり見物して、千代の興味を引いた店に立ち寄るのも悪くは無いと荀攸は思いながら歩き始める。
 好奇心旺盛な年頃の娘の興味を引く店は少なくないだろう。
 日頃の千代の言動を踏まえれば、装飾品や小物を扱う店よりも、美味しそうな菓子を扱う店に興味を持つのだろうと思うと、荀攸は苦笑した。
 こんな色気のいの字も無いような屈託のない娘を、荀攸は抱きたいと思っているのだ。
 苦笑以外の何を浮かべろというのだろうか?
 女を抱いた時に千代を重ねて以来、定期的に欲望を吐き出す手伝いを荀攸にさせられているなど、きっと千代は考えもしないのだろう。
 「荀攸様、あのお店に寄ってきて良いですか?」
 荀攸の思考が不埒な方向に傾きかけたのを阻止したのは千代だった。
 「菓子屋でも見つけ・・・交易所ですか。」
 「はい。」
 各地の品を集めて売る交易所には、確かに珍しい品物が多い。
 「良いですよ。」
 交易所で商品を見た後に、何処かで茶を飲むのも悪くは無いだろうと思いつつ、荀攸は千代を伴い交易所の中に入る。
 店先には珍しい織り方の布が飾られていた。
 店に入れば、異国情緒あふれる品が数多くある。
 はしゃいだように千代が店内を見て回るのを眺めつつ、荀攸も商品を眺めた。
 時折、この手の店には珍しい書物が入る。
 異国の戦術が記された書物があれば儲けものだ。
 千代はどのような品物に興味を持つのだろうか?
 そっと様子を窺えば、虎の毛皮の敷物に興味を持っているらしい。
 虎の頭部を撫で撫でしたり、牙を触ったりしている。
 すぐそばの異国の耳飾りには欠片も興味を向けていないらしい事が残念極まりないが・・・まぁ、それも千代らしい。
 「何かお探し物ですか?」
 声をかける店の男は、見た所は異国の出身のようだ。
 浅黒い肌に翡翠のような瞳で、堀の深い顔立ちをしているが、言葉は流暢である。
 「書物は扱っていますか?」
 「えぇ、南方の植物などを記した書物がありますよ。
 他には太秦の逸話を記した書物なども。」
 「拝見しても?」
 「勿論です。」
 如才の無い異国人はにこやかに荀攸の要求に応じると示すと、店の奥へと誘おうとする。
 まだ見ぬ土地の事を記された書物には大変に興味が惹かれるが、さて千代をどうしたものかと荀攸は思案する。
 「お連れ様でしたら、この者にお相手をさせておきますので、どうぞご安心を。」
 異国人が手招きをすると、民族衣装に身を包んだ少女がすっと現れて拱手する。
 おそらくは西の果ての方の民族の血が入っているのだろう。
 白い肌と瑪瑙のような瞳が特徴的だ。
 何処となく、千代も似たような色彩を持っているので、もしかすると千代の持つ血と近いものがあるのかもしれない。
 この店に居る限りは安心か、と荀攸は少しだけ書物を確認するために店の奥へと足を運ぶ。
 店の奥は特別な客をもてなす空間が作られていた。
 異国情緒たっぷりの室内に入ると同時に、すぐさま茶と菓子が出される。
 茶を喫していると、箱に入れられた書物が幾つか持ち込まれた。
 「どうぞ、お手にとってご覧下さい。」
 「それでは。」
 上等な布張りの箱から恭しく書物を取り出した異国人から、書物を受け取り荀攸は中を確認する。
 竹簡に記されている文字は、お世辞にも綺麗とは言い難い。
 使う言語が違うため、翻訳が適切ではない場合も多く、この手の書物は高値の割に外れも多いのだが、読めないという程度の物でも無いため、荀攸は即座に購入する事を決めた。
 こういう書物を読み解く作業は嫌いではない。
 「お幾らですか?」
 もしも千代に似合いそうな装飾品でも見つければ、買ってやろうと思っていたので、懐具合には余裕がある。
 「ありがとうございます。それでは・・・。」
 異国人の耳打ちした金額は、安くは無いがこの手の書物にしてみれば良心的な価格であった。
 「商談は成立ですね。
 ここに送り届けていただければ、あと金をお支払いします。
 手付金として二割でどうですか?」
 高価な書物を持って街を散策する気にもなれないので、荀攸は袂に仕舞っておいた竹札に携帯していた筆で屋敷の在所を書いて異国人に渡す。
 異国人が僅かな驚きを見せたのは、おそらく荀攸の素性を知ったからだろう。
 こういう時、名門・荀家というのは都合が良い。
 素性が確かだと信頼を得やすいからだ。
 異国人が驚きを見せたのは一瞬の事で、すぐに流暢で上質な笑顔を浮かべて恭しく拱手を行う。
 「かしこまりました。」
 「では、お願いします。」
 さっさと卓に金を置いて、荀攸は立ち上がる。
 店の者が相手をしているとはいえ、千代の事が気がかりだった。
 「あぁ、そうそう・・・これは購入特典のようなものですが、よろしければどうぞ。」
 足早に部屋を出ようとする荀攸を異国人が、少しばかり大袈裟な調子で呼びとめて、荀攸の目の前に小さな巾着を差し出した。
 何か分からないものを受け取るのも憚られて、説明を求めるように異国人に視線を向ける荀攸に、異国人の口元が弧を描いた。
 「よろしければお使い下さい。
 どんな生娘でも乱れる秘薬です。」
 その言葉が含む毒に荀攸が嫌悪を示す前に、その手の中に巾着を押しつけて異国人は、再び如才の無い流暢な商売人の顔を作って、恭しく拱手して首を垂れる。
 腹を立てて要らぬと突き返すほうが、この場合は無粋であるから、荀攸は異国人を一睨みして袂に巾着を無造作に突っ込んだ。
 珍しい書物は扱っているかもしれないが、この店に再び足を運ぶ気にはなれそうにない。
 足早に店の奥から出れば、何やら異国の少女がおろおろとしていた。
 やはり千代を野放しにしておいたのは失敗だったか。
 後でゆっくり見れば良いとでも言って、奥に連れて入るべきだった、と荀攸は僅かに後悔をしつつ何が起きたのかを確認するために異国の少女と千代の傍へ足を向ける。
 異国の少女が荀攸を見つけると、安堵したような表情を浮かべた。
 「オキャクサマ、キュウニ、ナクダシタ。」
 先ほどの異国の男とは違い、こちらは片言しか使えないらしい。
 ただ、何が言いたいかは伝わったので、荀攸はぎょっとする。
 荀攸から見て千代は背中を向けて椅子に座っている。
 「どうしたんです?!」
 日頃は明るい千代が、急に泣き出すような出来事など全く想像できないので、思わず普段より大きな声で動作も大きく千代を荀攸は覗き込んだ。
 「ずびっ・・・荀攸様・・・。」
 椅子に座っている千代の手にあるのは、意匠の凝らされた胡弓である。
 琥珀色の瞳に涙を溜めた千代が、鼻水を啜りながら覗き込んだ荀攸の名を呼ぶ。
 その瞳から涙がこぼれる前に、咄嗟に荀攸は指で掬う。
 その目元に唇を寄せて舌で零れる涙を救ってやりたいという欲望を強引に抑えつける。
 「な、何があったんです?」
 つい先ほどまで上機嫌だったというのに、千代が涙を浮かべている理由が分からず、荀攸は珍しく動揺を表に出す。
 千代がスンっと鼻を啜った。
 「・・・姉上に会いたいです。」
 ぼそっと千代が涙声で呟いた。
 「・・・・姉上とは、例の姉上ですか?」
 荀攸の想像の中では女装した呂布な千代の姉。
 千代がこくりと首を縦に振った。
 「こんなに長らく姉上を離れてるの初めてなんです。
 姉上がよく弾いてくれてた曲を弾いたら、物凄く姉上に会いたくなっちゃって・・・・ズビッ。」
 「もしかして、それで最近たまに落ち込んでいたんですか?」
 「え?バレてました?
 いや、荀攸様と一緒に居られるのは嬉しいんですよ。
 ただ、やっぱりたまに姉上に会いたくなるんです。」
 千代の手の中から胡弓を受け取りつつ、荀攸はここ最近の気になっていた出来事が唐突に解決した事に脱力したい気分になった。
 おろおろする異国の少女に胡弓を手渡すと、溜息をつく。
 望郷の念とでもいうべきか。
 まぁ、話に聞いている限り、千代は姉と仲が良いようであるし、やはり慣れない環境で生活をしている事により、姉を恋しく思う事もあるのだろうが・・・・。
 何だ、好いた男を思っているわけではないのか。
 随分と稚拙な悩みだった事に、荀攸は無意識のうちに安堵した。
 緩んだ気持ちのまま、荀攸はいたって自然に千代の頭に手を置いた。
 結い上げた髪を崩さない様に撫でてやる。
 涙を浮かべた琥珀色の瞳が荀攸を見上げてくる姿は、なかなかに扇情的だ。
 そのまま髪を乱しながら口を吸いたいと思わせる顔は目の毒だった。
 欲望を実行に移さないうちに、荀攸は千代から視線と手を離した。
 「色々と落ち着いたら一度帰省出来るように計らいましょう。
 どうしても会いたいのなら、姉上をお呼びしても良いですよ?」
 「良いんですか?
 姉上を呼んだら、もれなく姉上のヒモも付いてきますよ。」
 「・・・貴方の姉上は悪い男に引っ掛かっているのですか?」
 「悪い人、では無いと思いますが・・・。
 なんか煮え切らないヒモは姉上飼ってます。
 ヒモから縄くらいにはする心意気で飼ってます。」
 これ以上は、何も聞くまい・・・聞いたところで、混乱するだけだ。
 千代が姉の男との交際について納得しているのであれば、それは荀攸が問題視をする話ではない・・・筈だ。
 「まぁ、ヒモだか縄だかは知りませんが・・・問題が無いのであれば良いですよ。」
 「ヒモが縄になったくらいで姉上をどうこうできるとも思えないので、問題はありませんね。」
 「なら、良いです・・・俺としては、貴方が泣きやんでくればそれで良いです。」
 「すいません、つい姉上に会いたくなっちゃって。
 でも、もう大丈夫です。」
 にこっと千代がいつもの屈託のない明るい笑みを浮かべる。
 やはりこの娘は笑顔の方が似合っていると、荀攸は思う。
 「荀攸様が頭撫でてくれたら吹き飛びました。」
 ぴょこんと椅子から勢いよく立ちあがる千代は屈託が無い。
 「また撫でてくれますか?」
 こてっと小首を傾げて尋ねる姿は、あどけなく、荀攸は溜息をついて内心の動揺を誤魔化した。
 衝動的に二度も触れてしまった。
 自分の欲望をはっきりと自覚しているだけに、軽はずみな接触は控えるべきである。
 己を戒めるように思う反面、また触れても良いのかと喜ぶ自分がある事に荀攸は辟易とした。
 「良い子にしていれば、気が向いた時にするかもしれませんね。」
 触ってはいけないのに触りたい。
 曖昧な心情を含めて荀攸は返答した。
 それを聞いた千代が嬉しそうに微笑むものだから、気持ちはまた触れようという方に傾いてしまう。
 「そんな事よりも、菓子でも食べに行きましょう。
 俺の方は用事は終わりましたしね。
 普段頑張っている分、菓子くらいは奢ります。」
 「良いんですか?じゃぁ、私、月餅食べたいです!」
 「なら行きますよ。」
 「はぁい。」
 元気の良い返事をして荀攸に続く千代は、困惑顔をしている異国の少女に軽く笑顔で手を振った。
 店の奥から下卑た笑みを浮かべてこちらを窺う異国の男に千代が気が付いていない事に荀攸は安堵する。
 異国の男から押し付けられた巾着が袂で妙に重く感じて、荀攸は千代には分からない様に眉を顰めた。
 折を見て何処かで捨てるべきだ。
 袂の中の巾着を使う機会など荀攸には無いのだから。
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