冷静と情熱の効果
夢小説設定
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荀攸という男を簡単に評すなら、生真面目。たったその一言で済むだろう。
誰よりも早く登城し、うんざりしたくなる程に山と執務机に積み上げた書類を顔色一つ帰ることなく、文句もなくただ、ひたすらに淡々処理する姿は、余人曰く「人間味が薄い」との事だ。
意欲的に他人と交流を持つ事の無い荀攸にとって、余人の評など心の底からどうでも良い事柄だが、一つだけ困ったことがあった。
付き人が長続きしない。
主に身の回りの世話をする雑用が仕事の付き人は、どうしても雇い主の傍で控える時間が長くなる。
そのため、荀攸のように感情をあまり表に出すことなく、必要最低限の会話しか行わない雇い主というのは、付き人曰く「息が詰まる」存在らしく、年下の叔父にあたる荀彧の誘いに応じて曹操に仕えて以来、次々と付き人が暇乞いをするという羽目になってしまっているのだ。
同じく軍師として曹操に仕えている荀彧であれば、付き人に対しても礼節を弁え適度に付き合う事もできるのだろうが、生憎と荀彧のそういった器用な面は荀攸には備わっていないらしい。
先日も何人目かに雇い入れた付き人に暇乞いをされてしまって、荀攸はほとほとに困っていた。
仕官していなければ、最低限の身の回りの事くらい荀攸もできる。
だが、曹操の配下というのは想像よりずっと多忙であり、どうしても日常の些細な雑用にまで手が回らない。
臨時で部下を使うにしても、彼らには彼らの仕事がやはりかなりの量あるのだと思うと、厚かましく雑用を押しつける事が出来ないあたり、やはり生真面目な性分なのだろう。
日頃は些細な事には拘らない荀攸ですら、今の執務室の有様は溜息を漏らしたくなるくらいに酷い乱雑さだ。
ここ数日、特に朝早く登城しているのは、執務室に入って執務を行うに必要な準備を自分でしなければならないという実に情けない理由があった。
気の利いた付き人であれば、雇い主が執務室に入るまでに最低限の生理整頓を行い、執務を行うのに必要であろう物品の全てを揃えていてくれるだろう。
早急に付き人を雇わねば。とは、思うものの、簡単にこの件は片付きそうになかった。
何せ付き人や付き人志望者の中で、荀攸は仕えにくい主として有名になってしまっているのだから。
自分のどこが悪いのか・・・・爽やかな朝に見合わぬどんよりした気分で荀攸は考える。
数日前に暇乞いして出て行った付き人には、相場より多い給金を提示していた。
今回はそれよりもさらに給金を上乗せで付き人を探しているのに、ただ雇い主が感情表現が薄く言葉少ないというだけで、一向に希望者が現れないのは、荀攸としても頭の痛いところである。
今日もまず執務室をするための掃除から始めねばならないと思うと、うんざりしてしまい自然と足取りは重くなった。
それでも荀攸の冷静な思考回路は淡々と自分のやるべき事を効率的に組み立てていく。
当たり障りなくすれ違う人と朝の挨拶を控え目な声で交わす荀攸の苦悩は誰にも伝わらない。
荀彧に相談すれば、自分の付き人を一時的に寄越してくれる可能性は高いのだろうが、荀家随一の優秀さを持つ年下の叔父をこんな事で煩わせるのは荀攸としても酷く心苦しいものがある。
執務室に向かいつつ、「はぁ」と思わず荀攸が溜息を漏らした時だった。
くすくすと笑う声が聞こえて、荀攸はやや落としていた視線を上げる。
「おはようございます。」
「やあ、おはよう。良い朝だね。」
淡々とした荀攸の機械的な挨拶に、忍び笑いの主は気分を悪くした風でもなく爽やかに気さくに朝の挨拶を口にする。
すらりとした細身の優男。
色の薄い髪に端正な顔立ちは、黙って立っているだけで女達を蕩けさせる。
実際に遠くから黄色い声をあげる女官たちは少なくない。
遊びで良いから一夜をこの優男と共にしたいと願う女は掃いて捨てても未だ余るほどに居るのだ。
商売女のヒモ然とした軽薄さを持っている男が、曹操配下随一の頭脳の持ち主なのだから人とは見かけによらない。
「爽やかな朝に似つかわしくない顔をしているね。」
口元に薄い笑みを浮かべられて、荀攸は少しだけ視線を外す。
どうにもこの郭嘉という色男に見つめられると、全てを見透かされているような気分になって居心地が悪い時があるのだ。
無言で視線をそらした荀攸に郭嘉はさして気分を害した様子は無い。
「先日、付き人が決まらなくて困っていると言っていただろう?」
柱に身を預けたまま郭嘉が言葉を投げかけた。
そういえば、酒の席でそんな話をした事を荀攸は思い出す。
だが、あれはほんの酒席での世間話程度であり、深刻な悩みとして打ち明けたわけではない。