【本編8】Meets05 優しいバーサーカー

 朝がきて、昼が近くなってもミチルは眠り続けていた。
 砂漠の国に飛ばされて、ぱっくんちょされかけて、監禁されて脱出して、再びぱっくんちょされかける。
 どう考えても一日のカロリーではなかった。疲労がたまっていて当然である。

「ふみゅ……」

 しかし強い日差しを感じて、ミチルは少し身じろいだ。
 ああ……だるい……
 それから背中があったかい。絡められた腕も気持ちいい。

「起きなさい」

 誰?

「起きなさい」

 だから、誰?
 ミチルは嫌々まぶたを開けた。そこにいたのは──

「起きなさい! コドモのくせに朝寝をぶちかますとは、生意気なっ!」

「ぷえぇ……!」

 目だけ開けたミチルが見たのは、褐色肌に黒い髭を上品にたくわえた、まあまあのイケオジだった。
 昨日のブラコン兄さんがそのまま歳をとったような……
 ということは、まさか。

「ルーク! 起きなさい! お父さんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!」

 やっぱりぃいい! ルークのパパだぁあ!
 ミチルは飛び起きようとしたけれど、ルークに抱きつかれているので出来なかった。

「んん……」

 そしてルークはいまだ夢の中。

「ミチル……プルクラ……」

 多分、夢の中でルークは相当張り切っていて、それが手つきに現れてしまった。

「きええ! ルークゥ! だめぇ!」

 ルークのおててがチョメチョメよ!


 
「起きるんだッ! ルークッ!!」


 
 おじさんの怒号が部屋中にコダマした!

「……はっ! 父さん?」

「るぅくぅぅ……」

 目覚めの一発をきめられそうになったミチルはすっかり涙声。
 そんなミチルの状態に気づく間もなく、ルークはやっと起き上がった。
 その頭上には腕を組んでずおぉぉんと立つ、仁王像のようなおじさん、もといルークパパ。

「愛しの我が息子よ! こんな年端もいかない少年と一晩中××で××しまくってうらやま……じゃなくて、嘆かわしい!」

 寝起きに卑猥ワードを繰り出さないでぇ!
 ミチルは真っ赤になって否定した。

「そ、そんなこと、してませぇん!」

 だが、ルークパパはジロリとミチルを睨んで言う。

「……その格好で?」

「え? ああぁあ!?」

 そこで初めてミチルは自分の姿を確認した。パジャマはすっかりはだけまくって、肌色面積八割。際どいトコロがチラリズム。
 ルークだって負けてない。もう少しでルークのルークがチラリズム。

「ギャアアァア!!」

 ミチルは大慌てでパジャマを正しく着こんだ。ルークはルークをチラリしたまま、まだボーっとしていた。

「まったく、出張から帰ったら、息子とその愛人の痴態を見るはめになるとは、なんと今日は良き日!」

「違うんですぅ! ……え?」

 弁解しようとしたミチルをよそに、ルークパパは涙を浮かべて喜んでいるようだった。

「天国の母さん! ルークがついにプルクラを見つけたのだ、喜んでくれ、母さぁああん!!」

「黙れぇ! 奇天烈オヤジィ!!」

 今度はミチルの遠慮ない怒号が部屋中にコダマした。





 とにかく経緯を説明しなさいと言われたので、ルークとミチルは身支度を整え始めた。
 ルークパパと入れ替わりに、執事のカカオが着替えを持って部屋に入ってくる。
 どう見ても「昨夜はお楽しみでしたね」という顔で。

 もちろん楽しんでも張り切ってもいないが、寸前までいってしまったのは事実。
 ルークとミチルは顔を合わせるのが気恥ずかしくてモジモジしていた。
 それを見るカカオの目は、新婚初夜を済ませたカップルを見るように、気持ち悪く垂れている。

 もう知らん。変態オジサン達にどう思われようと、二人の間はいまだピュワァなのだから。
 ミチルはそう開き直って、いつものパーカーを着ると、ようやく気持ちが落ち着いた。

「はあ……やっぱ、コレがいいや……」

 大学デビューをした暁には、こんな古ぼけたパーカーは捨ててやると思っていた。
 だが、今は、このパーカーこそが、ミチルがミチルでいられるアイテムのように思える。

「ミチル、父さん、食堂にいるって」

「う、うん」

 ルークは少し緊張した面持ちで、ミチルの手をとった。
 自然と手を繋いでしまったけれど、こんな状態で行ったらまた何を言われるか?
 ミチルが不安そうな顔をしていると、ルークはにっこり笑った。

「大丈夫。父さん、きっと、わかってくれる」

 ルークは父親にどんな種類の話をするつもりなのだろう。
 まさか僕たち結婚します、とか言わないよね。それは考え過ぎだろ! そんなはずないよ! まだそんな、ねえ?
 ミチルは一人で百面相をしながら、ルークとともに、父親の待つ部屋に向かった。


 
「改めて歓迎しよう。ようこそ、異邦のお客人。私が当家の主、マグノリア・ループスである」

 入った部屋の奥でヨギ○ーみたいな大きなクッションに体を沈めて、威厳たっぷりにルークの父親、マグノリアは言った。

「ミチルです……」

 ミチルはルークとともに、マグノリアに相対するように座る。ルークは胡座をかいているけれど、ミチルは思わず正座してしまった。

「さて、早朝、私の元に不肖の長男、ルードから親書が届けられた。お前達に関する、兄からの所見だ」

 やっべえ、あのブラコン兄貴、パパにちくったな。
 ミチルはどんな報告がされたのか、おそらくあまり良い事は書かれていない予感がしていた。

「これによると……ミチル、お前は異世界からの来訪者だとあるが、相違ないか?」

「え……」

 なんで、あのブラコンアホ兄貴がそれを?
 ミチルは頷くのも忘れて、思わず呆けてしまった。
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