アニーの章 闇射す君が俺の光

 どんなに未知の冒険でも、オレ達ならきっと大丈夫。


 
「ミチル、準備はいいかい?」

「はあい……!」

 若い二人は見つめ合い。
 そしてミチルは目を閉じる。
 
 キスを待つその顔は、アニーに全てを委ねている。そんな風にされたら色々疼いちゃうけど我慢我慢!
 アニーはゆっくりと、愛らしい小さなお鼻に唇を寄せる……


 
 あむあむ……♡



 アニーの唇が、ミチルのお鼻をぱっくんちょ!

「ふあん♡」

 ミチル、×××の奥までムズムズ!



 突如、ぶわっと蒼い羽根が舞う。
 あむあむしているアニーが蒼く光る。
 ムズムズしちゃってるミチルも蒼く光った。

「は、は、はっくしょーい!!」



 今、オレ達は、蒼く跳ぶ……



 ◇ ◇ ◇



 12:00 ルブルム現着。見捨てられた街・ダリア。あの(・・)歓楽街。

「わあぁあ! あの街だあぁうわ!」

 ムズムズ転移は大成功。ミチルはお鼻をあむあむしたルブルム担当イケメン・アニーとともに、寂れた酒場通りに立っていた。
 今は昼。通りは誰も通らず、閑散としている。

「いいねえ、久しぶりの我が家。ミチルとしけこもうか」

「やだあ、アニー! 言い方がエッチぃ」

 伴侶になった後なので、アニーのこんな発言にもミチルはノリノリで返しちゃう。
 昼間っから、営業前の酒場の二階で……ええー? いいんですかぁ? とか考えているが、もちろん本気ではない。

 さすがのミチルにも節操はある。
 ルブルムの、この街に転移したのもきっと意味があると感じていた。


 
「あれっ、旦那! 帰って来たのかい?」

 聞いた事のあるようなダミ声。
 振り返ると、遠い昔、ミチルをナンパした。
 そしてアニーにめちゃんこビビらされた。
 最後には怒れる情夫と化したミチルにもビビっていた——あのおじさんがいた。

「久しぶりだねえ、ホスアサの旦那」

 ホスアサて。
 ホストアサシンだからかい。

 にこにこ顔のおじさんに、ミチルは心の中でつっこんだ。

「やあ、ご無沙汰」

 アニーはおじさんの態度に合わせてにこにこしている。
 ミチルに害をなさなければ、こんなおじさんは取るに足らない存在だ。
 つまり、テキトーにあしらおうとしているのがモロ分かり。ミチルはアニーの隣で愛想笑いするしかなかった。

 だがこのおじさんは何度も登場するだけあって、結構しぶとい。
 とても有力な情報を持っていた。

「……とと、悠長に挨拶してる場合じゃねえ! 旦那、サルビア様のお屋敷が大変なんだよ!」

 サルビア、とはアニーが大恩を感じているマフィアのボスである。
 ミチルは筋肉隆々でスーツがパツパツのイケおじの顔を思い出していた。

「どうした?」

 途端にアニーは顔色を変える。
 サルビアの危機を聞けば、そうならざるを得ない。親代わりのような人なのだから。

 おじさんは真面目に怖い顔になったアニーに少々怯えながら教えてくれた。

「なんかさあ、変な部族とドンパチやってんだよ!」

「……」

 変な部族?
 ミチルはルブルムの印象から、某先住民族を妄想した。

「ああん?」

 アニーは眉毛をひん曲げて、首も捻る。
 何の事かさっぱりわからない。と言うような顔だった。



 ◇ ◇ ◇



 サルビアの屋敷は、大きな川を上った森の中。
 懐かしいなあ、アニーを追ってここまで来たよなあ、というミチルの感傷は一気に吹っ飛ぶ。

 本当にドンパチな音がするからだ。

「にゃー! ピストルだあぁあ!」

 屋敷の前で、黒いスーツにサングラスの集団がばんばん撃っていた。
 これではマフィアの抗争である。

「なんじゃありゃ!」

 彼らが対峙している敵の集団を見て、ミチルは腰が抜けそうになった。
 腰巻きだけの半裸の男達。腕や脚には何かのペイントを施している。
 浅黒い肌、顔にも白いペイントが。

「イン〇〇アン!?」

 ミチルの貧弱な想像力では、そう形容するのが精一杯だった。
 某部族のような彼らは、ピストル相手に棒やナイフで弾をキンコンカンとはじいている。

「なにアレ。野蛮だなあ」

 アニーは呑気に彼らをそう評していた。
 しかし、すぐにそうも言っていられない状況がやって来る。

「アニー!? アニーじゃねえか!」

 マフィア集団の真ん中で指揮する大きな熊のような男。
 一家のナンバーツーであるマリーゴールドである。

「ああ、マリーの兄貴! 何やってんのお?」

 アニーは軽い挨拶のノリで右手を挙げた。
 だが、マリーゴールドは必死の形相で叫ぶ。

「気をつけろお! コイツら、かなりヤベエぞお!」


 
 その叫びを合図に、某部族的な奴らが数人、こちらに狙いを定めた。
 ミチルを目掛けて走って来る。

「ぴえええっ!」

 なんでオレを狙うの!?
 弱そうだから!?
 そんなの卑怯過ぎない!?

「……おいおい」

 部族達は狙う相手を間違えた。
 アニーの声音が、一段低くなる。

 次の瞬間。

 ミチルまであと数歩という所で、部族な男達は白目ひん剥いてパッタリと倒れた。

「ミチルを狙うって言うなら、死んでも文句は言えないよ……?」

 倒れた男達を踏みつけて、闇の微笑みを浮かべるアニー。
 その場の全ての命が凍りついた。



「み、見えなかった……」

 アニーの闇に当たって、凍らないのはミチルただ一人。
 だが、吐いた台詞がだいぶ物騒だったので、わたわたと慌てる。

「あああ、アニー、アニー!? こ、コロしちゃった!?」

 すると、アニーは爽やかスマイルで答える。逆に怖いやつである。

「あっはは、まさかぁ。ミネ打ちってやつに決まってるじゃあん」

「ほへえー……良かったぁ」

 アニーがヒトコロをする訳ないのはわかっている。
 が、万が一を疑うほど、アニーの闇が怖過ぎた。



「つ、強すぎる! 人間じゃない!」

 遅れてやって来た部族の男は、完全にへっぴり腰でアニーに慄いていた。

「そうそう。俺、カリシムスだからさっ」

 アニーの自慢を最後まで聞かず、部族の男は後ろを振り返る。

「リーダー! 助けてえ!」

「……リーダー?」

 アニーは手首を鳴らして、その後ろから歩いて来る人物を注視する。
 リーダーと呼ばれた男は、浅黒い肌に、一際派手なペイントで。
 だけど結構若い印象の……ハンサムだった。

「お前……」

 部族ハンサムは、アニーの顔を訝しげにジロジロ見た後、ボソッと呟く。

「リコリス?」

「……えっ」



 アニーの表情が驚きに固まる。
 ミチルは何が起ころうとしているのか、さっぱりわからなかった。

 この、部族ハンサムは一体……?
 ハンサムにあんまりいい印象ないんだけど……

 そんな事を考えていると、アニーが驚いたままで答える。



「なんで曾祖父さんの名前、知ってんの?」
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