05 おてて繋いで散歩しよ

 おてーてー、つーないでー
 ……などと暢気に歌える余裕はすでにミチルにはない。

 日中は野山をジェイと散歩して、ピクニックデートみたい♡なんて浮かれていた。
 だが、辺りはすっかり薄暗くなってしまっている。それでもジェイの歩みは止まらない。
 
 手を引いてゆっくり登ってくれるから疲れはないけれど。
 ジェイといるから不安とかもないけれど。
 それでも……

「ねえ、ジェイ。まだ着かないのお?」

 ついつい、ちょっと不満が口をつく。
 黙々と歩かされて、ミチルは正直飽きてきたのだ。

「む、すまないミチル。もう少しだ」

 ジェイの手は温かくて頼りになる。だから周りが少しずつ暗くなっても、ミチルに焦燥感はない。
 絶対の信頼をしているし、ジェイがそれを裏切る事は絶対にない。

 だけども……

「もう暗くて景色もわかんなくなりそうだよぉ……」

 目的もわからずに歩き続ける、いや、山道を登り続けるのは結構苦痛。
 どうせぽんこつの事だ、ジェイだけの思考で手一杯なのだろう。
 だから文句もちょっと出ちゃう。仕方ないじゃない。



「ああ、ミチル。着いた」

「ほへえ……」

 だが苦痛は突然終わる。
 陽が暮れてあまりよく分からないが、開けた場所に出た。
 ミチルのいた日本なら、小さい山の中腹にある展望台のような場所だった。

「ミチル、あれだ」

 ジェイはいつになく声を弾ませて、空の向こうを指差した。
 そこにはたった一つ、輝く星が昇っている。

「おおー、一番星かな?」

 小高い丘のような風情のこの場所は、清らかで爽やかな空気を感じる。
 凛と透き通って、少し冷たい風がミチルの蒸気した頬を冷ました。

 そんな清廉な空間に、瞬く星。それは、吹く風の冷たさからか高潔さも感じた。
 何ものにも侵されない、はっきりとした輝きがミチルに存在を示す。
 その星を見ていると、自分の心が前向きに定まっていくように思えた。

「プリマステラだ」

 短く言ったジェイの言葉の意味はミチルにはよくわからない。
 だけどその響きは気に入った。

「あの星の名前?」

「うむ」

「ほええ……なんか、いいねえ」

 ミチルが星を見ながら頷くと、ジェイは顔を綻ばせる。

「良かった。この星をミチルに見せたくて。ここからが一番良く見えるから」

「そうなんだあ、キレイだねえ……」

「ミチル」

 星に見惚れていたミチルは、ジェイに呼ばれて意識を戻す。
 見上げたジェイの顔は、薄暗い中なのに、星のようにキラキラ輝いて見えた。


 
「ミチルはプリマステラのようだ」

「うん?」

「最初に昇る星。一番の指標になる存在だ。ミチルは私の中に最初に光ったプリマステラ……」

「ふええっ!」

 ちょっと、急にどうした?
 ぽんこつナイトがポエミィに口説き出したぞ?

「ミチルは私の中で、何よりも尊く輝いて私の心を奮わせる」

 ちょっと、本当にどうした?
 夜空マジックか?

 ミチルは迫るぽんこつナイト(キザモード)の迫力に、うっかりラブが溢れそう。


 
「ああ、ミチル。君は私の、私だけの星(ステラ)……」

 迫る唇。温かい吐息。
 ミチルの体はあっという間にラブで砕け散る。

「はう……」

 冷たい夜風を、ジェイの温もりがミチルを温めた。
 どんなに暗くても。
 これからもっと寒くなるとしても。
 ジェイが側にいてくれたら、凍えない。安心して夜明けを待てる。

 ああ、ジェイもまた……

「ジェイだって、オレのお星様だよぉ……♡」

 すると、最上の愛に溢れた笑顔が返る。

「そうか。良かった……」

 力強い腕が、ミチルを包み込む。
 ジェイの胸から心音が聞こえる。嬉しさにトクンと跳ねている音が。

「あったかあい……」

 ミチルはその胸に頬を寄せて目を閉じた。
 全てを委ねると抱きしめてくれる、ジェイの温もりが心地良い。

「ミチルも、あたたかい……」

 柔らかな髪に、顔を埋めてジェイもまた目を閉じた。



 君だけが、心を照らす星(ステラ)。
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