04 もしもミチルがカフェバイトをしていたら

 オレの名前は坂之下(さかのした)ミチル!
 平凡な大学に通う、平凡な大学生さ! だけど今、オレは都会のオシャレタウンでオシャレカフェバイト中!
 ここで働いている時だけ特別な制服を着て、特別なオレになれるんだ!

 特別なオレには、いつかきっと特別な「最愛」が……



 大変です! 超トクベツなお客様が来ています!
 見てコレ、オレのお盆。震えて水がこぼれそう。

「い、いいい、いらっ、イラ、っしゃい、あせええ……」

 聞いた? オレの声。上擦って何を言ってんのか自分でもわかんない。

「おき、おきぃ、お決まりになり、ましたルァ、および、よびよび……さぁい!」

 ギャー! もう勘弁してえ! 許してください、ごめんなさい!

「……ふむ」

 おわあああ、メニューを見る横顔が美しすぎるぜ! 黒々と光ってるんだぜ!

「うーむ……」

 悩ましげな顔がびゅーちほー過ぎるんじゃあ!
 これが、スーパートップモデルのルチル・サンドロスかああ!

 オレの視線は究極美モデルに釘付けで、足が動かなくなっていた。
 ていうか、ルチル様、メニュー見ながらずっと首傾げてんだけど?

「我、読めない……」

 ズコー!! っとオレはコケそうになった。
 〇リコレなど世界中のファッションショーを飛び回るルチル様は、そういえば国籍不明で売っている。日本語を喋っているのは見たことあるし、日本に住んでるとか聞いてたんだけどなあ。

「……読めない」

「はうっ!」

 超絶美モデルのルチル様が、眉を下げて上目遣いにオレに助けを求めてきます。
 何これ。何このカワイイの。ルチル様って超絶可愛いもいけるんだあ。

「ええっとお、お飲み物になさいますか?」

「我、喉乾いた。冷たくて、黒くて、甘いのが飲みたい」

 オレの心臓は砕け散りそうだけれども、ルチル様の様子が少し危なっかしいので世話焼き心が湧く。給仕モードを思い出した事で、オレはようやく普通に喋れるようになった。

「では、クラフトコーラはいかがですか?」

「うん」

 待ってえええ。「うん」だって、素直で可愛い過ぎるんですけどおおお。

「へい、クラフトコーラ、いっちょおお……」

 すいません、やっぱり長くは持ちませんでした。
 うん、の破壊力が凄すぎて、オレの喋りはいっそうヘンテコになりました。

「我、腹も空いた」

「さっ、さようでございます、くあぁ……?」

「黒くて、美味しいものを食したい」

 黒くて……
 美味しいもの……
 そんなの、このカフェにあったかな。

「うーん……あっ! しょ、しょうしょう、お待ちくだすわ……ッ!」

 オレはダッシュで厨房に駆け込んだ。
 今朝、見たんだ。店長が内緒でキャビアを冷蔵庫に入れてるのを。狙ってる嬢への献上品だろう。
 だが残念だったな、アレを使わせてもらうぜ!

「お待たせしました、特製クラフトコーラと、パンケーキのキャビアなどなど乗せでええす!」

 オレは涙を流す店長を説得し、シェフにアレンジパンケーキを作ってもらった。とにかくカフェにある豪華な食材(生ハムとか高いチーズとか)をふんだんに使って。

「おお……美味しい。黒いぷちぷち、美味しい」

 ルチル様から「ぷちぷち」もいただきましたあ!
 可愛すぎて悶え死ねます!


 
「ありがとう。其方、名は?」

「はいい! 坂之下ミチルです!」

 お腹いっぱいになったルチル様はにっこり笑ってオレの名を聞いた。
 なんて美しいんだ、ちくしょうめ。こんなの答えないわけにいかないだろ。

「ミチルか。我はチルクサンダー」

「チルクサンダー? ルチル・サンドロスじゃなくて?」

 急に血の気が引く。人違いだった……の、か?
 いや、でも、こんな美しい人が二人いる方がおかしくない?

「それは芸名というやつだ。我の本当の名はチルクサンダー。其方には知っておいて欲しい」

「ふへえええ♡ かしこまりましたあ♡」

 なあんだ、そういう事かあ。
 国籍も正体も不明で売ってる、ルチル・サンドロスの本名を知ってしまったあ。優越感がすごい♡

「払いはこれで」

「ははー!」

 胸元から颯爽と取り出したのは、ブラックなカードでございます。
 聞いた所によると、コレ、戦車も買えるそうです。
 店長はウッキウキでレジに向かいました。きっとグレーな値段設定をするんでしょう。

「……あのような黒いカードで、其方の心までは買えぬだろう」

「ふひ……っ!?」

 チルクサンダーの紅い瞳がオレをとらえて煌めいた。そして、華麗な笑みを浮かべる。

「ふふ、我に黒い野望が出来てしまったぞ」

「はひ?」

「ミチル。其方のハート、我の黒い炎で染めてやろう……♡」

「きゃあああ!」

 もう、とっくに焦げてるんですけど!



 その後、当店の冷蔵庫には絶えずキャビアを常備するようになりました。
 店長はその一つをくすねて嬢に持っていきましたが、「生臭い」と言われたそうです……
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