04 もしもミチルがカフェバイトをしていたら

 オレの名前は坂之下(さかのした)ミチル!
 平凡な大学に通う、平凡な大学生さ! だけど今、オレは都会のオシャレタウンでオシャレカフェバイト中!
 ここで働いている時だけ特別な制服を着て、特別なオレになれるんだ!

 特別なオレには、いつかきっと特別な「最愛」が……



 こんなオシャレタウンの、富裕層かオシャレに夢中な若者しか来ないカフェで(※ミチルの偏見です)事件の匂い。
 一番端に席で、男性二人がヒソヒソ話し合って何かをやり取りしている。

「……アニキ、じゃ、これ。例の」

「おう、いつも世話かけるな」

 店員のオレから見て手前に座ってるのは、大きな背中のクマみたいなおじさんだ。その人が大きいせいで、奥の席の男は声しか聞こえない。

「……手に入れるの、苦労したんだからね」

「いやあ、お前さんに頼んで良かったよ」

 どうやら手前の男が奥の男に依頼して、何かを受け取ったみたい。
 喫茶店でこんなやり取り、ドラマだけだと思ってた。でもオレは実際目にしちゃってる。

 一体何をやり取りしてるんだろう。
 お金? それとも土地権利書?
 まさか……怪しい白い粉じゃないよね?

「じゃあ、オレァ、ボスにすぐ渡しに行かなくちゃなんねえ」

「気をつけろよ。OJにバレたら元も子もない」

 ……何それ!? 何かの暗号?
 それとも殺し屋のコードネーム!?

 聞き耳立ててビビり散らかしているオレに、手前の男は気づかず、ササっと立って店を出て行った。
 後に残されたのは。

 残されたのは……

「ん?」

「ほわぁあ!」

 オレは思わず叫んでしまった。
 そこには金髪碧眼の超絶イケメンが座ってた。しっぽ髪が野暮ったいけど、逆になんか危険な香りがする!


 
「君、ちょっと」

「はひっ!」

 バレたぁあ! 見てたのバレたァア!
 超絶イケメンが手招きしてる、逆らえない!

「君……俺達の会話、聞いてたね?」

「ほひっ、はひっ、はいぃ……!」

 イケメンの問いに嘘なんかつけない。ていうか、言い逃れとか出来ない危険な雰囲気だった。
 金髪碧眼の裏取引(?)お兄さんはオレの手を掴んでニッコリ笑う。

「お客様の会話を盗み聞きするなんて……イケナイ子だなあ?」

 あっ……もうダメ、確定です。
 口封じされちゃうヤツだと思います。サヨナラ、オレのオシャレ生活……

「あのね、君、勘違いしてるね?」

「──ほへ?」

 泣きそうなオレに金髪碧眼お兄さんが笑いかけた。

「ふふふ、漫画の見過ぎじゃない? 今のは怪しい取引とかじゃないよ」

「へっ?」

 金髪碧眼イケメンさんはさらに悪戯っぽく笑う。呆けたオレにはなんだか魅惑の悪魔のように見えた。

「俺はアニー。私立探偵……だけど、実際は何でも屋さ。今もね、とある会社の社長さんからの真っ当な依頼だよ」

「そ、そうなんですか? 今の人、社長サン……?」

 オレは恐る恐る金髪碧眼イケメンさんに聞いた。すると彼はまた笑って答える。

「ううん、あのおっさんは部下。社長さんのお嬢さんの誕生日にね、トップアイドルのコンサートチケットを調達したんだ」

「ああっ、OJってお嬢(OJO)さんってコト!?」

 なんでわざわざそれ隠語にした? 不思議な疑問もあったけど、目の前のイケメン──アニーの顔が良すぎてどうでも良くなってしまった。

「そう。ね、全然怪しくないでしょ?」

「は、はあ……」

 私立探偵がどうやるとアイドルのコンサートチケットが取れるんだろう。意外と危ないかもしれない、というオレの不安はやっぱりアニーの顔が良すぎてどうでも良くなる。


 
「で、もぉー、君には随分喋っちゃったなー」

 アニーは楽しそうに笑ってオレの握ったままの手に、指を絡ませてきた。

「ひゃっ、ああ!」

 そんなに艶めかしくサワサワされたら、なんかドキドキしちゃう!

「君、名前は?」

「あ、坂之下ミチルですけどぉ……」

 店長からお客様に名乗っちゃダメって言われてるのに、気づけばオレはスルッと名前を言っていた。
 これもアニーの顔が良すぎるからだ。

「そう、ミチル。君、ここのバイトは今日で辞めない?」

「ふええっ!?」

「俺、君が気に入っちゃったあ♡ 俺のアシスタントしない? バイト料ははずむよ」

「ええええっ!?」

 戸惑いまくるオレに、アニーは絡めた指にキュッと力を込めて、碧い瞳を光らせて笑った。

「ぜーんぶ教えてあげる……俺のこと♡」

「ほにゃあぁあ……」



 その日、オレはカフェバイトを辞めてました……
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