01 ミチルがマスクをかけました

 コホンコホンと可愛らしい咳が聞こえる。
 ルークが耳を澄ませて聞いていると、マスクをかけたミチルが現れた。

「ミチル? どうしたの?」

「うん……なんか、咳が出ちゃって」

 ミチルはその顔の下半分をマスクで隠しながら答えた。
 病気かもしれない、とルークは慌ててソファから立ち上がる。

「大丈夫? ミチル、熱ある?」

 ルークがその手を握るが、特別熱いとは感じなかった。
 ミチルも笑って首を振る。

「ないない。咳が出るだけで、あとは元気」

「ほんとに?」

 おでこに手を当ててみても、熱はなさそうだった。
 それでルークは少し安心する。

「ね、ないでしょ?」

 ミチルは笑っているが、その口元が見えないので笑顔が儚く見える。
 そう思ってしまうと、重病なのに心配をかけまいとしているようにも見えた。


 
「でもミチル、これから熱出る、かもしれないよ?」

 ルークが再度心配すると、ミチルはうーんと考えた後、閃いたように答えた。

「最近風が強くて、家に砂がよく入るからじゃないかなあ?」

 ルークの家は砂漠の中にある。生まれた時からここで暮らすルークにはままあることでも、ミチルはそうもいかない。
 そしてミチルのその結論は、更にルークを追いつめるのだった。

「ああ、砂漠の誇り高き砂、ミチルにとって良くない? ごめんね」

「ええっ? ルーくんが謝る必要なくない?」

 ますます眉を下げるルークにミチルは面食らった。心配させたくなかっただけなのに、余計にルークを落ち込ませてしまった。

「ううん、砂漠の砂、ぼくの……ラーウスの誇り。でも、ミチルに合わない……悲しい……」

「いやいやいや、違うよ? 普段は大丈夫よ? 今日だけ、今日だけ風が強くてだね?」

 まるで怒られて落ち込んだワンコのよう。
 シュンとなってしまったルークに、ミチルはオロオロしながら弁解した。

「ほんと……?」

 キュウン……と鳴き声が聞こえるような、ワンワンポーズ!
 か、かわゆい! ミチルの心臓は弾け飛ぶ。

 こんな純真なルークを悲しませてはならない!
 ミチルは意を決して仮病を使うことにした。


 
「あ、ああ、ルークぅ……」

「ミチル?」

 よろめくミチルをルークがしっかりと抱きかかえる。

「やっぱりオレ、風邪だと思うよぉ……砂埃が喉にひっかかるんじゃなくて、風邪だったんだよぉ」

 ルークが悲しまない方が大事!

「ああ、ミチル、大変。ベッドで横になろ?」

 そう言いながらルークは実に軽やかにミチルをお姫様抱っこする。

「ありがと、ルークくぅん……♡」

 風が強い日は風邪を引くしかなくなったミチル。
 だが、それはそれでルークと甘い時間が過ごせる。

 ごめんね、ルーク♡
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