03 耳としっぽが生えちゃった!

これは着ぐるみではない。断じて。
ましてやオレの願望がバグった末の妄想でも……ないっ!



「ちっ、ちっ、チルくーん♪」

 ここは教会ペルスピコーズ。ミチル達はいまだ居候を続けている。
 法皇のマゴなので、どこに行ってもどエライ扱いをされるミチルは、今日もまんまと僧正からおやつをもらった。

「チルクサンダー? おやつ食べよー、チョコレートまんじゅうだよー」

 教会の各所を回ったが、チルクサンダー(鉄壁カレピ♡)の姿がどこにもない。

「チルクサンダー?」

 知識を蓄えるのが好きなチルクサンダー。歴代法皇の手記やら資料やらを読み漁るのが最近のお気に入り。法皇しか入れない秘密の書庫……と言っても本棚は少なく、居心地のよいリビングのような部屋をミチルは覗く。
 そこにいるかと思ったら、やはりいない。いるのは大きなパンダのみ。

「なあんだ、パンダしかいないや」

 ミチルが踵を返そうとすると、愛しきカレピのボイスが聞こえてくる。

「ミチル、どこに行くのだ」

「あれえ? チルくん、どこにいるの?」

 もう一度部屋を見回しても、いるのは大きなパンダだけ。

「我はここだ」

「うん?」

 窓辺に立って逆光なため、よくわからなかったんですが。
 このパンダ、人の顔があるぞ。しかもかなり美しいぞ?

「チルくんがっ!!」

 まさかまさかの。

「ミチル、我、何かおかしいぞ」

「パンダになってるぅうううー!?」

 その形状を説明します。
 チルクサンダーは人面パンダになった訳ではありません。
 そうですねえ、幼児用の着ぐるみパジャマってあるじゃないですか。動物のフード付き、全身つなぎの。あんな感じです。
 でも、細身のチルクサンダーが着たら細パンダでは? って思うじゃないですか。
 大丈夫です。胴体は何故か膨らんでおり、カワイイと感じる白銀比(1:1.414)を再現しています。
 言葉は悪いかもしれませんが、ずんぐりむっくり的胴体なのです。

「解説はいいっ!」

 ミチルは脳内?に流れる何かを振り払った!

「どおーしちゃったの、チルくん! そんなに可愛くなってえ!」

「いや……我にもさっぱりわからぬ」

「まさか、歴代法皇の……呪い!?」

 ミチルは青ざめていたが、動転した気分を紛らわせたくて半分冗談を言ったつもりだった。

「うむ……とある法皇の手記に白黒熊の記述があってな。それを読んでいたからかもしれぬ」

「どうしよう、えぇじいちゃん、今日は出張で帰らないよ」

 ミチルの頼みの綱はいつだって曽祖父である法皇エーデルワイス。
 だが、チルクサンダーも今は人の身であるが、かつてはカミの子息。今の状態が危険かどうかくらいはわかる。

「なに、焦ることはない。特に邪悪な魔力は感じない。法皇の帰りを待っても遅くはあるまい」

「ほんとにい? じゃあ、とりあえずおやつ食べる?」

 ミチルの切り替えも早い。異世界の不思議に慣れきってしまっている。
 カミの子息であったチルクサンダーの判断なら、誰よりも正しい。
 ……というのは建前で、もふもふパンダになったチルクサンダーをひとときの間でも堪能したいのだ。

「ふむ。今日のおやつは黒くて甘いチョコレートまんじゅうか……」

 チルクパンダーはミチルの手の中を覗いて、少し嘆息した。

「我、なんだか今は、緑を食したい気分だ……」

「緑? あっ、パンダだから笹的な事かな?」

 ミチルの理解が早すぎる。異世界に慣れきってしまっている証拠である。

「わかった。なんか、緑色の食べ物もらってくるね!」

 そうしてミチルは一旦部屋を出ていくのである。



「チルくーん! 緑の食べ物、もらってきたよー!」

 期待にほっぺを膨らませて、ミチルはカゴいっぱいの野菜を手に戻ってきた。
 緑と言えば、ほぼ野菜カラー。甘くないけど大丈夫かな? とか思いつつ、最初の野菜を手渡す。

「はい、笹的に持って食べられそうなセロリはどう?」

「うむ」

 バリバリ、むしゃむしゃ……
 チルクパンダーの顔は曇ってしまった。

「我、緑、おいしくない……」

「だよねー。じゃあ、キューリはどうかな?」
 (※セロリは栄養豊富な美味しい野菜です)

 パキパキ、ボリボリ……
 チルクパンダーの顔はやっぱり曇ったまま。

「我、緑、おいしくない……」

「そっかー、やっぱりねー」
 (※キューリも美味しい野菜です)

 チルクパンダーは悲しそうにしている。おいしくない、と感じるものを食べさせられたのだから当然だ。
 だが、ここまではミチルの想定内。チルくんにはごめんやでだけど、ミチルはちょっと遊んでみたかったのだ。
 おかげでしょんもりしたチルクパンダーの、かわゆい佇まいを心のアルバムに収められた。

「ふっふっふー! 安心おしよ、チルクパンダー♡ 真打は別にアリだよ!」

「おいしい……? 緑、おいしい?」

 首を傾げるしょんもりパンダ。可愛さの極致。
 ミチルは悶える心を抑えて、とっておきのブツを取り出した。

「ジャーン! 緑で甘いメロン♡ 大僧正(※教会のナンバーツー)のデザート、かっぱらってきたあ!」

「緑……良き匂い」

 チルクパンダーは興味津々!

「はい、あーん♡」

 メロンをスプーンで掬って、ミチルはチルクパンダーに食べさせた!
 ──開・眼ッ!

「我、緑、うまい! これはおいしい緑!」

 メロンにメロメロー♡

「良かったねえー♡ チルクパンダー♡」



 美味しいものを一緒に食べて、すっかりご満悦の二人。
 今宵、ミチルは何故か膨らんだチルクパンダーのもふもふお腹♡の上で寝ました。

 そしたら別のところも膨らんだそうです。
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