ジェイの章 私の誇り尊き天使

 ジェイの父親を暗殺したであろうブッドレア大臣。今もジェイを狙う所業を阻止するべく、カエルレウム魔法顧問クローバーが動く。
 彼の作戦は、国を挙げてのセレモニーを催すこと。名付けて『プルケリマ・ミチル様とジェイ・アルバトロス君のご成婚歓迎パーティー』だ。

「ごっ……せい、こん!?」

 突拍子もない事に、ミチルの目はまんまるクリクリ、くるりんぱ。
 ジェイも多分驚いて言葉を失っている。表情筋非発達なのでよくわからないが。

「そうです。君達はすでにペルスピコーズで儀式を終え、新婚生活の真っ最中だと聞いています。なんてめでたい、その二人が晴れて祖国に凱旋したのです、国王陛下から歓迎の祝典があって当たり前でしょ」

「は、はあ……」

 急に口数とテンポが早くなっているクローバー。詐欺師の常套手段である。ミチルに余計な事を考えさせずに、意のままに操ろうとしているのだ。

「ちなみにアルバトロス君にはこの度の巨大な功績を讃え、男爵位が贈られます。実家と荘園も復活してますよ、良かったですね」

「えっ、ナニ? どゆこと?」

 ミチルが戸惑っていると、同じく呆然としたジェイが簡潔に答える。

「つまり、私に貴族の身分が戻った、という事だ」

「エエー! マジー? ウソー? すっごーい!!」

 何という事でしょう。出会った時は麻の服、再会したら上級騎士服。さらに凱旋したら高級絹の服を着ることに。
 ジェイの出世、ここに完遂す。ミチルは両手を挙げて大喜び。
 ますますイケメン度が上がっちゃうよ。オレ、生きていけるかな!?

「ねえ、すごいでしょ? だからパーティーで囮になってくれますよねえ?」

「んん!?」

 クローバーから急に物騒なワードが飛び出した。
 ミチルは両手を挙げたまま、今度は目ん玉をひん剥いた。

「ブッドレア大臣の方は私が散々挑発しておきました。この機にきっと君達を狙うと思うんですよお」

「ハアアァ!?」

 なんて事してくれたんだ、バッカじゃないのお!?
 ミチルがそう叫ぶ前に、ジェイがその前に躍り出る。

「魔法顧問様、どうかお許しください。ミチルを危険な目には合わせられない!」

「ジェイいぃ……♡」

 身を挺して守ってくれる。まさにナイトとオヒメサマ。
 きゅんきゅん嬉しがるミチルを他所に、クローバーの意地悪な視線がジェイを貫いた。

「あれれ、いいんですかあ? これはネモフィラ将軍のご意向ですよお? まさか恩人の命令に背くなんて、騎士の君には出来ませんよねえ?」

「む……っ!」

 イタイ所を突く。なんて性悪なんだ。
 クローバーは胡散臭くて怪しい魔法使いだと思ったが違った。
 陰険性悪・魔法顧問なんだ!!

「ほらほら、将軍に忠誠を誓いますよねえ?」

「む、むむ……ッ!」

 仕事と家庭(?)、どっちを取るの。ジェイには究極の選択が突きつけられた。
 ミチルは固唾を飲んで棒立ち。なんか、そんな王道な「ヨメのワガママ」論でジェイを苦しめたくなんかないのに。

「ジェ……」

 そんなの答えなくていいよ、とミチルが言いかけた時。
 ジェイは澄んだ瞳できっぱりと言い放つ。

「私の全てはミチルです!」

「……ぺっ?」

 意表を突かれたのはミチルだけではない。
 クローバーも、将軍も、それから存在を忘れていたラベンダーも。目を丸くしてジェイに注目する。

「確かに過去の私があるのは将軍のお力ゆえ。だが、今の私が在るのはミチルがいるから。ミチルが私の全て、ミチルを危険な目に合わせて失うくらいなら、どうぞ私の首をお刎ねくださいっ!」

 怖いー!
 言ってる事が怖すぎるー!
 いくら性悪顧問でも、そこまで言ってないじゃん!

 ミチルは大袈裟なジェイの言葉に全力で突っ込みたかった。
 だけど、「ミチルが私の全て」が嬉しすぎて、なんかもうどうでも良くなる。



 パン……パン……パンパンパンパン……ッ



 ゆっくりと、それからリズミカルに拍手が鳴り響いた。
 もちろんこれはネモフィラ将軍である。どうも彼は心動くと拍手をする癖があるようだ。

「素晴らしい! 感動した! よくぞ申した、それでこそカエルレウムの英雄カリシムスであるッ!!」

「ははっ、ありがたき幸せ……!」

 ジェイは条件反射で将軍の前に跪いた。
 クローバーはなんだか白けた顔をして、ラベンダーはうっかりウルウルしている。

「顧問殿、作戦は練り直しだ」

「ええー? 僕がどんだけあの大臣と酒宴をしたと思ってるんですう?」

 将軍の言葉に、クローバーはわかりやすくぶうたれた。


 
 一人立ち尽くすミチル。
 ジェイはオレにここまでしてくれた。
 それならオレもジェイの気持ちに応えなきゃ。ジェイのためにならなくちゃ。



「そ、そそ、その必要はありませえぇん!」

 声が震える。だって囮なんてやっぱり怖い。
 だけど。

「ごせーこんパーティー、やってやろうじゃないのォオ!」

「ミチル!?」

 ジェイがビックリしてる。ごめんね、ジェイの決意をひっくり返すような事言って。

「囮なんてヨユー!」

 そうさ、怖くなんかない。

「だってジェイが守ってくれるもん!!」

 オレは、オレのイケメンを信じてる。

「ミチル……」

 ジェイを、信じてる。



「  エ  ラ  イ  ッッ  !!  」

 執務室に怒号のような将軍の叫びが響く。拍手喝采はラベンダーと合わせてダブル。

「いやー、良かった良かった。これで私の痛風も報われます」

 クローバーを合わせてトリプル喝采。ミチル讃頌の拍手、鳴り止まず。



「へへ、へへへ……」

 ミチルは照れながらジェイの手を握った。

「ミチル。私は……」

 ジェイはまだ少し不安気に瞳を揺らす。

「ジェイ、頑張ろうね」

 だから笑いかける。オレはジェイと一緒に戦うよ。
 だってそのために、オレはここに来たんだから。

「わかった。ミチルを全身全霊で守り抜く」



 決意に輝くジェイの顔。
 イケてるどころではなかった。
 なんかもう、美しすぎた。
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