ジェイの章 私の誇り尊き天使

 ジェイの父親の形見である大剣を預かってくれ、ジェイに託して騎士への道を開いてくれた大恩人。
 それが、濡れパン校長・ネモフィラ将軍である。ミチルによる二つ名は不名誉なので今後は言及を避ける。

「再び会える日を待つ」という激エモ手紙一通だけで、ジェイのこれまでを支えてきた足長おじさんであるネモフィラ将軍。
 ミチルはその設定(?)にキュンキュンしていた。それを思い出しながら、ミチルは今一度冷静になって考える。
 
 はて。
 ど緊張で何も言えないジェイの様子だと、二人はどうも初対面みたいなんだけど。
 それなのに「再び・・会える日を待つ」とは……?


 
「ミチル様」

 ミチルの思考を、クローバーの言葉が遮った。

「ふあい!?」

 驚いて間抜けな声が出てしまった。アホがバレたらどうしよう。(注 もうバレてる)

「二人揃って黙られては困りますねえ。ご覧の通り、我が将軍も口が立つ方ではないので」

「えええー……?」

 そんな理不尽な。
 初めて会う国のトップ達に、どんなおしゃべりを披露しろって言うんだ。

「とりあえず……そのカリシムス、なんとかなりません?」

 クローバーは少し声の調子を落として、冷ややかな視線でジェイを見ている。
 そのジェイはと言えば。

「むむ……むっふう、むむむ、むっ、むう……むっ」

 まるで壊れたラジオ。
 逆になんかラップっぽくも聞こえる。「むむむラップのDJジェイ」とかでデビューしたらどうだろう。
 ……なんてふざけた思考を追いやって、ミチルは焦ってジェイの巨体を揺する。

「おおい、ジェイ! いいかげんにしろお! 正気を取り戻せえ!!」

「むむ、むむむ、ミミ、ミミ……ミチル」

 おお、オレの存在は辛うじて認識しているらしい。
 ミチルはピンと閃いた。愛のショック療法ならどうだろう。
 躊躇しているヒマはない。ジェイの一大事である。自分の直感を信じるんだ!

「ジェーイ! 愛してるぞおおっ」

 ミチルはピョンとジャンプして、ジェイの首元にぶら下がり、そのまま頬をめがけて……
 ぶっちゅううう♡ と熱いキッスをぶちかました!

「「「キャーーーーッ!」」」

 いきなりのラブシーンに思わず叫ぶ、ハンサムとおじさんと激渋将軍!
 ほぼおじさん達に茶色い声を上げられて、ミチルは羞恥の極致。
 それでもジェイが正気に戻るなら。オレの恥辱など、どうでもいいっ!

「……はっ! ミチル?」

 ぶら下がったミチルを両腕で抱きしめて、ジェイはその瞳にやっと光を取り戻す。

「ジェイ? だいじょぶか? わかる?」

「ああ……わかる」

 あ、やべ。

「愛しい私の天使が……」

 愛が効きすぎました。

「ミチル……」

 色惚けジェイからのお返しむっちゅっちゅ♡が……!

「おいおい、待て待て待て……!」

 むっちゅっちゅ♡が……

「「「(わくわく、ドキドキ)」」」

 三人のほぼおじの視線も……

「ひえええ……っ」

 近づくジェイの唇が。
 むっちゅっちゅー♡

 おめでとうございます!!
 アホのプルケリマとカリシムスは、国の要人達の面前で!
 それはもう、なんかすでに枯れたおじさんも潤っちゃうほどの、あっついキッスを披露しました!!


 
 ちゅーは続くよ、どこまでも。
 それを止めたのは、将軍からの拍手喝采。

「素晴らしい、なんという愛。二人の絆、しかとこの目で拝見しました」

 ミチル、腰が砕けて喋れません。
 代わりに平静を取り戻したジェイがネモフィラ将軍に一礼した。

「ご挨拶が遅れました。ジェイ・アルバトロス、ただいま帰還いたしました」

 ジェイに抱きしめられたまま、ヘロヘロのミチルは思う。
 おまーが最初からそれが出来てれば、こんな事しなくて済んだんじゃい!

「うむ。任務遂行、大義である」

「はっ、ありがたき幸せ」

 よくもまあ、♡♡♡状態のオレを片手にそんな軍事的な挨拶が交わせるな!
 ミチルは文句を言いたいけれど、まだ♡♡♡がドキドキしているので不可能だった。



「さて。場も落ち着いた所で、今後の相談を致しましょう」

 興奮をすっかり無かった事にして。
 クローバーは元の胡散臭いニッコリ笑顔で仕切り始めた。

 腰が♡♡♡しちゃっているミチルは、ネモフィラ将軍の許しを得てソファに座る。
 その将軍も、自分の机に戻って落ち着きを取り戻した。椅子に深く座り、机上で手を組んでクローバーを促す。

「例の件だな」

「そうです。そこのカリシムス——ジェイ・アルバトロスはある者に命を狙われています」

「……エエッ!?」

 クローバーの言葉に一番驚いたのは、当の本人であった。

「やっぱし……」

 ミチルは一応気づいていた。それはジェイに初めて会った時から。
 騎士なのに、門番の配下に置かれ、危険なベスティア狩りを何度もさせられた。
 その功績は全く評価されず、ずっと窓際に追いやられていた。

 こんな事を続けていたら、そのうち大きな戦いの前線に出されて死んじゃうんじゃないかって。
 もっとも、カリシムスになった今のジェイが戦いで負けるはずがない。
 だから、ミチルはその不安をすっかり忘れていた。

 それでも、火種は燻り続けている。
 完全に断たなければ、どんな悲劇が起こるかわからない。

「ついに私はつきとめたのだ……」

 ネモフィラ将軍は、威厳たっぷりに勿体ぶる。

「アルバトロスを狙う黒幕を……」

 ミチルとジェイは緊張しながら、ゴクリと唾を飲む。



 ジェイの命を狙う黒幕。
 その正体は……

「ブッドレア大臣だ」

 低く、涼やかな声が部屋の真ん中に落ちる。
 ミチルは冷や汗が額に滲むのを感じた。
 ジェイを見ると、やや顔を青ざめて少し震えている。

「だ、誰ですか……?」

 おまーは大臣も知らんのかいっ!
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