ジェイの章 私の誇り尊き天使

「はっはっは、まあまあラベンダー君も落ち着いて」

 ゆるふわハンサム魔法顧問・クローバーはミチルから手を離して豪快に笑う。
 ジェイの嫉妬反応を見て即座の行動だった。

「ジェイ、だいじょぶ? 怒られたん?」

 ミチルが寄り添ってそう聞くと、少し罰が悪そうにして、ジェイはミチルの右手をぎゅっと握ってから首を振る。

「いや、大丈夫だ。心配するような事はない」

「ふうん……?」

 ぽんこつ故に怒られ慣れてはいるんだろう。
 ジェイが上司にこっぴどく叱られていたのは、まあ、仕方ないとして。
 ミチルはジェイが珍しく嫉妬を態度に表しているのが新鮮で、ちょっとくすぐったくも嬉しかった。

「へへ……」

「色惚けている場合では、ぬわぁい!」

 若人の恋愛に興味のない怒れるおじさんが、机をズバンと叩いて空気を変える。
 おじさん、もといラベンダーは顰めっ面のままミチルを睨んでいた。

「ようこそ、やんごとなきプルケリマ様! 私はラベンダーと申します!」

「ええー……台詞と顔が合ってないなあ」

 頬をぽっぽと紅潮させて、ラベンダーは努めて心にもないお世辞を試みる。

「プルケリマ様におかれましてはご健勝のご様子、面妖な……いや、摩訶不思議な……いやいや、理解不能な……おおう、素晴らしい装いに、このラベンダー感服しております!」

「素直に変な格好って言えばいいじゃん! そんなに変かなあ? こっちじゃセーラーって珍しいのかあ」

 ミチルは自分のいでたちを改めて見る。ミチルの希望したカラーリングではないし、祖父の夢と伴侶たちの煩悩にまみれているけれど。これはこれで結構気に入っているのに。

「いや、ミチル。とても素晴らしくかわゆい。大丈夫だ」

 ジェイが心からの色惚けでフォローすると、クローバーもそれに続いて笑った。

「そうですよ。これ、あの希代のデザイナー、ミラモリスの一点ものですよ。すごいなあ、初めて見ましたよ。流行るかもしれませんね」

「な、なんでわかったんですか!?」

 ミチルが驚いて聞くと、クローバーはニコニコ笑顔を崩さずに言ってのける。

「襟のタグにミラモリスのブランドロゴが。いいなあ、私も一着作ってもらいたいなあ」

「め、めざとい……!」

 ミチルは更に驚いただけだったが、嫉妬が収まらないジェイは尋常でない反応を見せる。

「ミッ、ミチルの襟を覗き込んで、タグが見えるほど近づいた……! 胸が燃え盛る!!」

「ジェイぃい! 落ち着けえ!」

 そんなやり取りに痺れを切らせたラベンダーの怒号が飛ぶ。

「いい加減にしろお! これ以上私の胃を攻撃するなアァア!」

 さすがはぽんこつの上司。つっこみタイミングが完璧。
 だがその代償は大きい。ラベンダーはついに精魂尽き果てて、事務椅子に深く座り込んでしまった。



「やれやれ、仕方ないですね。ラベンダー君はちゃんと休息を取るように。若いうちからそんなに血圧を上げてはいけませんよ」

「くっ、クローバー様……後は頼みます」

 ラベンダーは椅子に座ったまま、机の引き出しからビンを取り出した。蓋を開けて白い錠剤を数個、手のひらに落とすと一気に口に放り込み、ガリガリと噛み砕く。
 その様子を呆れたように眺めながら、クローバーはゆっくり振り返り、ミチルとジェイに向き直った。

「さて。ジェイ・アルバトロス」

 細い瞳が光りながら開く。
 その威圧感に、ジェイはようやく緊張して一言返事をする。

「はい」

「プルケリマ探索任務、ご苦労様でした。見事完遂するだけでなく、君自身が伴侶——カリシムスに選ばれた事は大きな功績です」

「は、はあ……自分の任務はルブルム出張でしたが」

 ジェイの反論を、クローバーはニッコリと笑って吹き飛ばす。

「こうも言われたはずです、君が見失った人物を探してよいとも」

「ま、まあ……」

「まずはルブルムを探索。そうでしょう? 君の上官が走り回ったんですよ。任務は最初からプルケリマの捜索です」

「そ、そうなのですか……?」

 ジェイは今、丸め込まれようとしている。
 ミチルは横で聞いていて、クローバーの巧みなすり替え話術にため息が出た。

「プルケリマは当初からカエルレウムに降臨するはずでした。だけど、不運な事故が重なり行方不明になってしまわれた。君の任務はそのプルケリマを探すこと」

「なるほど……」

「君は決して何ヶ月も任務放棄をしたわけではない。何ヶ月もかけて重大な特殊任務を遂行し、見事プルケリマ様を伴って凱旋したのです。いいですね?」

「そうだったのですか……!」

 ミチルはラベンダーがノイローゼになるほど疲れ切った理由がわかった。
 全く帰って来ないジェイの任務内容をすり替えて、重大な任務を遂行してます状態を作り続けていたのだ。

「うう……っ! お疲れ……ッ!」

 なんという献身。
 なんという部下愛。
 そりゃあ、ジェイが帰ってくればグッタリでしょうとも!

 ミチルは机に突っ伏して意識を放り出しているラベンダーに、うっかり涙しそうになる。
 ここにも小さな萌えがありましたわ。



「……というのを踏まえまして」

 ミチルとジェイを完璧に丸め込んだクローバーは、不敵に笑いつつ両手を組んで宣言した。

「ネモフィラ将軍がお呼びです」

「え……」

 ジェイは言葉を失って固まった。
 それでミチルはピンと来る。

 ジェイから聞いた恩人。エモい手紙「再び会える日を待つ」の人。
 将軍ってきっとその人の事だ、と。

「では、参りましょう」

 ニッコリ笑うクローバー。
 ガチガチに固まったジェイ。
 そしてミチルの心は萌え萌えワクワクし始める。

 ついに、最大のキュン♡に遭遇できるんだ!
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