ジェイの章 私の誇り尊き天使
ミチル・プルケリマ召喚事件の一連の黒幕。
それがテン・イー。地球からの転移者である魔導士。
奴は、ミチルとイケメン達に挑み、禍々しい恨みつらみを吐きながら、最期には消えていった。
ミチルは奴を忘れないだろう。テン・イーの行いでたくさんの人が不幸になった。
ミチルは奴を許さない。その代わり「忘れないで」いてやる事が、己の存在理由を最期まで問うていた奴への餞 だ。
そんなテン・イーがまた出てきた。
あいつマジなんなの、そんなにカエルラ=プルーマが好きなの。どこにでも出てくるじゃん!
「ああ、やっぱりそんな顔をなさるんですねえ」
クローバーはのほほんと感想を述べる。
面食らったミチルの様子を微笑ましく見ているようだった。
「クローバーさん! 知ってたならなんで教えてくれないの!?」
「おや、ブッドレア君から直接聞きたがったのはミチル様ですよ」
「違うだろ!」
今日のミチルは冴えている。ジェイを危険に晒してしまったので、感度良好ビンビンだ。
飄々と笑うクローバーを、ズビシッと指差した。
「サポニンの矢尻の話をした時、『正体の見当はついてる』って言った! アレはベスティアだよ、オレにはわかる。そして、ベスティアが出てくればテン・イーが裏には必ずいるんだ!」
名探偵ミチルの推理が炸裂!
これにはさすがのクローバーも観念してガックリ肩を落と——
「ああーはいはい。アレねえ。そうですねえ、確かに口が滑っちゃいました。はっははー」
——す訳なかった。クローバーは悪びれもせずに笑う。
「しかしですね、ベスティアとは何なのか。倒す方法は確立出来ましたが、根本的な事は私達にはついにわからなかった。サポニンの使う魔法石がベスティアなんじゃないかなー? とは推測していましたが、確証は持てませんでした」
「それで?」
長々と言い訳されてもミチルには(アホなので)よくわからない。
「ご存知ない? ベスティアをベスティアだと確信して断じる事が出来るのは、今はミチル様だけなんですよ」
「まさか。じいちゃんだって出来らあ!」
ミチルの反論に、クローバーはいやいやと首を振る。
「法皇様や我々はね、状況などを総合的に判断してベスティアだと認定しているに過ぎません。見た瞬間に『これはベスティア』と理解出来るのはミチル様と……亡きテン・イーだけなんですよ」
「ええー……?」
「ですから、私などが前もってベスティア及びテン・イーの存在を確信していたなんて、とてもとても……!」
嘘くっさい。ミチルはクローバーのニヤニヤ笑顔を見ながらそう思った。
だけど、こんな押し問答は時間の無駄だ。ミチルは改めてブッドレアに向き直る。
「やい、クソ大臣!」
「ああ……続けてもいいのか?」
少しやる気を失っているブッドレアに、ミチルは毅然とした態度で叫ぶ。
「オネガイシマス!!」
頭は下げない。真っ直ぐ睨みつけながら、言葉だけ丁寧に。ミチルの気迫が伝わる一言だった。
一応礼を受けた気がしたブッドレアは少し態度を改めて、椅子に縛られたままではあるが背筋を伸ばして語り始めた。
「……私は国防大臣。カエルレウムの安全が第一である」
ちょっと前置きが遠過ぎない? とミチルは思ったが、意外と早く本題の人物が話に登場した。
「ところが我が国に不穏分子が匿われていると、テン・イー様から教わったのだ」
「テン・イーが、ここに来たの?」
ミチルが尋ねると、ブッドレアは頷きながら続ける。
「あれは確か……二十数年前だ。旅の魔導士を装って、私に会いに来てくだされた。誰にも知られずに滅んだ国がある。それは異世界への扉を持つ境界の国。ケラススという名のその国は、当時から数えて三十年ほど前に王女をカエルレウムに逃した、とおっしゃったのだ」
その話は食堂でクローバーがしたものと矛盾していない。ミチルはその王女がジェイのお祖母さんだと確信する。
「その王女は、どこかで大切に匿われ、子孫を増やし祖国に帰る事を狙っている……と」
「ちょっと言い方に敵意がない?」
ミチルからしてみれば、ケラススの事はよくわかっていないものの、ジェイの身内の話である。そんなに悪いようには受け取って来なかった。だが、目の前のブッドレアはそうではないようだ。
「ケラススは敵である! 王女が子孫とともに祖国に戻り再起動 したらどうなる!? 異世界の扉は開かれ、カエルラ=プルーマは未知の脅威に曝されるのだぞ!」
「そんな……夢みたいな話」
信じられない、とミチルは思った。
だが、頭の片隅ではもう一つの見方が。
ここはカエルラ=プルーマ、ミチルに言わせれば異世界ファンタジーの世界。何が起きても「ファンタジー」で片付いてしまうかもしれない。
「私は何年もかけて国中を調べたのだ! ケラスス王家の子孫の痕跡を! そして、ようやくアルバトロスを突き止めた……!」
「……いやあ、何というか、執念ですねえ。国防大臣としては 確かに優秀な方ですね」
クローバーは揶揄うように嫌味をこめて言うが、捕縛され正気ではないであろうブッドレアは少し自慢げに言い放つ。
「王女はとっくの昔に死んでいた。その事は喜ばしい。だが、まだ息子が残っている。リンドウ・アルバトロスの命も絶たなければ我が国の安全は約束されない!」
ジェイの父、リンドウが殺された理由が明かされた。
それは、大臣の身勝手な理屈。独断で国の危機を、無辜の民を一人殺めた事で救ったつもりになっている。
「ひどい……」
ミチルはやるせない気持ちで一杯だった。
「そんなの、私怨とかの方がまだマシだったよ……!」
ミチルの言葉を聞きながら、ジェイは全く喋らずに立ち尽くす。
父には何の咎もなかった。ただ、その身の上を疎まれて討たれてしまった。
何を思えばいいのだろう。
この、目の前の罪人に、一体何を言えばいいのだろう。
何かが口をつく気がした。だけどそれは音にならず。
代わりに、自分の代わりに怒る声が聞こえた。
「ブッドレアぁあああッ!!」
ネモフィラ将軍の怒号が響く。
鋭い剣先をその喉元にあてて、将軍は怒りに震えていた。
「貴様……貴様、よくも私の兄 を殺してくれたな……ッ!」
怒りに震え、悲しみに震える将軍。
たった一人の兄を殺された無念は計り知れない。
ん?
……兄?
ミチルは将軍の気迫に気圧されながら、とても聞き捨てならない事を聞いた気がした。
だが、ネモフィラ将軍は憎き仇を前に糾弾し続ける。
「兄を殺しただけでは飽き足らず、その忘れ形見の甥まで狙うとは許さない! この場で私が引導を渡してやるぁアア!」
え?
……甥? ジェイ?
「ああー! いけませんよ将軍、落ち着きなさい、どうどう!」
慌ててクローバーが止めに入り、事態は再び膠着状態になる。
怒りに身悶える将軍を羽交締めにしながらも、クローバーは笑っていた。
そして置いてきぼりのミチルとジェイは。
えーっと……
急に激昂されましたけれども。
将軍はお兄さんを殺されたそうで。
それがジェイのお父さんで間違いないです?
という事はですよ。
ネモフィラ将軍は、ジェイの叔父 さんって事です???
それがテン・イー。地球からの転移者である魔導士。
奴は、ミチルとイケメン達に挑み、禍々しい恨みつらみを吐きながら、最期には消えていった。
ミチルは奴を忘れないだろう。テン・イーの行いでたくさんの人が不幸になった。
ミチルは奴を許さない。その代わり「忘れないで」いてやる事が、己の存在理由を最期まで問うていた奴への
そんなテン・イーがまた出てきた。
あいつマジなんなの、そんなにカエルラ=プルーマが好きなの。どこにでも出てくるじゃん!
「ああ、やっぱりそんな顔をなさるんですねえ」
クローバーはのほほんと感想を述べる。
面食らったミチルの様子を微笑ましく見ているようだった。
「クローバーさん! 知ってたならなんで教えてくれないの!?」
「おや、ブッドレア君から直接聞きたがったのはミチル様ですよ」
「違うだろ!」
今日のミチルは冴えている。ジェイを危険に晒してしまったので、感度良好ビンビンだ。
飄々と笑うクローバーを、ズビシッと指差した。
「サポニンの矢尻の話をした時、『正体の見当はついてる』って言った! アレはベスティアだよ、オレにはわかる。そして、ベスティアが出てくればテン・イーが裏には必ずいるんだ!」
名探偵ミチルの推理が炸裂!
これにはさすがのクローバーも観念してガックリ肩を落と——
「ああーはいはい。アレねえ。そうですねえ、確かに口が滑っちゃいました。はっははー」
——す訳なかった。クローバーは悪びれもせずに笑う。
「しかしですね、ベスティアとは何なのか。倒す方法は確立出来ましたが、根本的な事は私達にはついにわからなかった。サポニンの使う魔法石がベスティアなんじゃないかなー? とは推測していましたが、確証は持てませんでした」
「それで?」
長々と言い訳されてもミチルには(アホなので)よくわからない。
「ご存知ない? ベスティアをベスティアだと確信して断じる事が出来るのは、今はミチル様だけなんですよ」
「まさか。じいちゃんだって出来らあ!」
ミチルの反論に、クローバーはいやいやと首を振る。
「法皇様や我々はね、状況などを総合的に判断してベスティアだと認定しているに過ぎません。見た瞬間に『これはベスティア』と理解出来るのはミチル様と……亡きテン・イーだけなんですよ」
「ええー……?」
「ですから、私などが前もってベスティア及びテン・イーの存在を確信していたなんて、とてもとても……!」
嘘くっさい。ミチルはクローバーのニヤニヤ笑顔を見ながらそう思った。
だけど、こんな押し問答は時間の無駄だ。ミチルは改めてブッドレアに向き直る。
「やい、クソ大臣!」
「ああ……続けてもいいのか?」
少しやる気を失っているブッドレアに、ミチルは毅然とした態度で叫ぶ。
「オネガイシマス!!」
頭は下げない。真っ直ぐ睨みつけながら、言葉だけ丁寧に。ミチルの気迫が伝わる一言だった。
一応礼を受けた気がしたブッドレアは少し態度を改めて、椅子に縛られたままではあるが背筋を伸ばして語り始めた。
「……私は国防大臣。カエルレウムの安全が第一である」
ちょっと前置きが遠過ぎない? とミチルは思ったが、意外と早く本題の人物が話に登場した。
「ところが我が国に不穏分子が匿われていると、テン・イー様から教わったのだ」
「テン・イーが、ここに来たの?」
ミチルが尋ねると、ブッドレアは頷きながら続ける。
「あれは確か……二十数年前だ。旅の魔導士を装って、私に会いに来てくだされた。誰にも知られずに滅んだ国がある。それは異世界への扉を持つ境界の国。ケラススという名のその国は、当時から数えて三十年ほど前に王女をカエルレウムに逃した、とおっしゃったのだ」
その話は食堂でクローバーがしたものと矛盾していない。ミチルはその王女がジェイのお祖母さんだと確信する。
「その王女は、どこかで大切に匿われ、子孫を増やし祖国に帰る事を狙っている……と」
「ちょっと言い方に敵意がない?」
ミチルからしてみれば、ケラススの事はよくわかっていないものの、ジェイの身内の話である。そんなに悪いようには受け取って来なかった。だが、目の前のブッドレアはそうではないようだ。
「ケラススは敵である! 王女が子孫とともに祖国に戻り
「そんな……夢みたいな話」
信じられない、とミチルは思った。
だが、頭の片隅ではもう一つの見方が。
ここはカエルラ=プルーマ、ミチルに言わせれば異世界ファンタジーの世界。何が起きても「ファンタジー」で片付いてしまうかもしれない。
「私は何年もかけて国中を調べたのだ! ケラスス王家の子孫の痕跡を! そして、ようやくアルバトロスを突き止めた……!」
「……いやあ、何というか、執念ですねえ。
クローバーは揶揄うように嫌味をこめて言うが、捕縛され正気ではないであろうブッドレアは少し自慢げに言い放つ。
「王女はとっくの昔に死んでいた。その事は喜ばしい。だが、まだ息子が残っている。リンドウ・アルバトロスの命も絶たなければ我が国の安全は約束されない!」
ジェイの父、リンドウが殺された理由が明かされた。
それは、大臣の身勝手な理屈。独断で国の危機を、無辜の民を一人殺めた事で救ったつもりになっている。
「ひどい……」
ミチルはやるせない気持ちで一杯だった。
「そんなの、私怨とかの方がまだマシだったよ……!」
ミチルの言葉を聞きながら、ジェイは全く喋らずに立ち尽くす。
父には何の咎もなかった。ただ、その身の上を疎まれて討たれてしまった。
何を思えばいいのだろう。
この、目の前の罪人に、一体何を言えばいいのだろう。
何かが口をつく気がした。だけどそれは音にならず。
代わりに、自分の代わりに怒る声が聞こえた。
「ブッドレアぁあああッ!!」
ネモフィラ将軍の怒号が響く。
鋭い剣先をその喉元にあてて、将軍は怒りに震えていた。
「貴様……貴様、よくも私の
怒りに震え、悲しみに震える将軍。
たった一人の兄を殺された無念は計り知れない。
ん?
……兄?
ミチルは将軍の気迫に気圧されながら、とても聞き捨てならない事を聞いた気がした。
だが、ネモフィラ将軍は憎き仇を前に糾弾し続ける。
「兄を殺しただけでは飽き足らず、その忘れ形見の甥まで狙うとは許さない! この場で私が引導を渡してやるぁアア!」
え?
……甥? ジェイ?
「ああー! いけませんよ将軍、落ち着きなさい、どうどう!」
慌ててクローバーが止めに入り、事態は再び膠着状態になる。
怒りに身悶える将軍を羽交締めにしながらも、クローバーは笑っていた。
そして置いてきぼりのミチルとジェイは。
えーっと……
急に激昂されましたけれども。
将軍はお兄さんを殺されたそうで。
それがジェイのお父さんで間違いないです?
という事はですよ。
ネモフィラ将軍は、ジェイの